最近、新型コロナの影に隠れて梅毒が増えていることをご存じですか?
実は、日本国内の梅毒の感染者数は、ここ50年間で最も多くなっています。
当クリニックでも、2021年は1年間で300人以上の梅毒患者が治療を受けました。

こういった梅毒増加のニュースを受け、ここ最近、梅毒の検査を受ける人も増えているように思います。
ただ、この梅毒の検査というのが少しやっかいで、検査結果の捉え方が少し複雑なんです。
また、梅毒は母子感染のリスクがあるため、妊娠を考えている方にも注意していただきたい病気です。

そこで今回は、梅毒がどのように増えてきているかをまとめつつ、梅毒の検査結果の捉え方について詳しく解説したいと思います。

梅毒はどれくらい増えているのか

梅毒報告数の推移(東京都 2020年)

梅毒報告数の推移(東京都 2020年)

出典:東京都感染症情報センター

梅毒報告数の推移(東京都 2021年)

梅毒報告数の推移(東京都 2021年)

出典:東京都感染症情報センター

上記は、左側が2020年、右側が2021年の東京都における梅毒感染者数の1週間ごとの推移です。みていただくとわかりますが、ゆっくりと右肩上がりに上昇していることがわかります。 

梅毒患者報告数の推移(2021年週報告・全国)

ちなみに、全国の週報告の推移は上記のようになっています。年末に駆け込みで検査をした方が多かったのでしょうか。グンと伸びたグラフに目が行ってしまいますが、それ以前からじわじわと増えてきていることがわかります。

男女別患者報告数推移

出典:東京都感染症情報センター » 梅毒の流行状況(東京都 2006年~2021年のまとめ)

上記は、東京都における梅毒感染者数の年ごとの推移です。
2010年代前半から徐々に増加し始めて、東京都では2017年に一度ピークを迎えました。全国的なデータとしては、2018年が日本国内としては7,007人と、ここ最近では最も患者数が多かったことがわかっています。

しかし、2021年は東京都のみで2,442人となっており、2017年の1.4倍で、ここ50年間で過去最高を記録しました。

過去には、外国人が持ち込んだ「インバウンド感染」ではないか、という可能性も指摘されていましたが、外国人観光客が少ないコロナ禍の現状において、患者が増加しているとなると、理由は他にあると考えられます。

では、どんな患者さんが多いのか

この増加した患者背景には、いくつかの特徴があります。

  • 女性の患者数が増加している
  • 男性は20歳代から40歳代まで満遍なく患者がいるのに対して、女性は圧倒的に20歳代の患者が多い

もともと、日本国内外を含めて、梅毒患者の背景は、HIVと同様に、MSMMen who have Sex with Men男性同性愛者)の方が多いと言われていました。
しかし、ここ数年で増えている患者背景を見ると、「風俗で働く若い女性と、風俗を利用した男性」が最も多いことがわかっています。(国立感染症研究所

男性 性風俗利用歴 女性 性風俗従事歴

風俗だけではなく、パパ活でも感染している方もいます。

梅毒はセックスで感染する性感染症の1種で、性行為があれば誰でも感染する可能性があり、性風俗だけがリスクではありません。ただ、ありがちなストーリーとして、「風俗利用で感染した男性から妊娠中のパートナーに感染し、母子感染のリスクが!」なんてことも十分に想定できる状況です。(人気マンガ「コウノドリ」でもそんなエピソードがありました)

母子感染を防ぐため、妊婦検診では妊娠初期に梅毒の検査が実施されています。しかし、万が一それ以降に感染してしまうと診断の機会がなくなってしまうのです。
妊娠時に梅毒の感染が起きると、流産・死産のリスクが上昇するだけでなく、低出生体重や骨軟骨病変などの先天梅毒のリスクも上昇してしまいます。国立感染症研究所の報告によると、年間200例を超える妊娠症例が予測されており、注意が必要です。

医師にとってもややこしい「梅毒の診断方法」

性感染症診断・治療ガイドラインを紐解くと、以下の2つの方法が記載されています。

  • 皮膚や粘膜などの病変部位からの浸出液を採取してPCRなどの核酸増幅法で病原体を検出する
  • 採血検査にて行える、梅毒抗体検査

梅毒は、The great imitator(グレート・イミテーター:偽装の達人)という異名があるほど、さまざまな症状が出るため、他疾患と間違われることもしばしばあり、初診時では「梅毒かな?」と疑って診察しなければ、診断はかなり難しいです。
梅毒を診断したことがない医師も多いため、専門医を受診することをお勧めいたします。
ちなみに、上記の1)梅毒のPCR検査に関しては、保険適用ではなく、ガイドラインには「梅毒トレポネーマPCRは、検体採取に習熟していないと検出感度が良くないことが知られている。PCR陰性でも梅毒を否定できない。」と記載されています。実際の臨床現場は行われることは、ほとんどありません。

一般的には、採血検査にて行うことができる、TP(梅毒トレポネーマ抗体)とRPRという二つの抗体検査の結果を見て判断します。

しかし、この判断がなかなか複雑なのです。

梅毒抗体検査の意味と解釈

梅毒の抗体検査にはTPRPR2つがあることを説明しましたが、簡単に解説すると、それぞれは以下のような意味があります。

TP:過去に、梅毒にかかったことがあるかどうか?
RPR:梅毒の現在の活動性

つまり、梅毒に一度感染して、きちんと治療を受けると、TPは陽性のままですが、RPRは陰性となります。
しかし、例外のパターンがいくつかありますので、以下の表で説明いたします。

梅毒血清反応の結果解釈

これを見ると、TPRPRが陽性であろうがなかろうが、梅毒の感染の可能性があるということになってしまいます。ちなみに、私もそれぞれの抗体値が全て陰性であったにも関わらず、明らかに梅毒の症状が出ている患者を何人も見たことがあります。

そうなると、検査の何を信用すれば良いのか?ということになってしまいます。

そもそも、「抗体の値」とは、梅毒と体が起こした反応を後から確認しているようなものであり、あくまでも「梅毒の影を追いかけているようなもの」なのです。抗体の値は、梅毒そのものを見ているわけではないのです。
その値をどのように解釈するのか、ということが非常に重要であると考えます。

 私自身としては、梅毒の診断において最も重要なのは、患者自身の背景と、現在の症状であると考えます。抗体検査は、あくまでも梅毒の感染を証拠付ける一つの材料でしかありません。患者全体の状況を見て、感染したかどうか、治療できたかどうかを判断する必要があるのです。

2022年も梅毒は増加するのか?

1週間ごとの患者数の推移を考慮しても、現在ある梅毒患者数増加のトレンドは、今しばらく続いていくと考えられます。

しかし、梅毒の治療は、比較的簡単にできます。
最短では、1回の注射、もしくは2~4週間の薬の内服で治療ができてしまうのです。
また、新たに注射による治療が承認され、126日に発売予定とのことです。

もしも、感染したかどうか心配な人がいるなら、とりあえずは抗体検査を受けられることをお勧めいたします。結果の捉え方が複雑とはいえ、早期発見には有用です。
病院に受診することがしづらい人は、自宅でできる郵送検査もあり、信頼度はかなり高いことがわかっています。
しかし、抗体ができるまで性交渉から6週間が必要なので、注意してください。
また、陽性が出た場合は、泌尿器科、皮膚科、性感染症科へ受診をすることをお勧めいたします。