男性不妊・メンズヘルス

男性不妊症と精子酸化ストレス

私が解説します

小堀 善友

小堀 善友
男性の性の健康に関する診療を担当。
■泌尿器科医 ■生殖医療専門医 ■性機能学会専門医 ■性科学会セックスセラピスト

男性不妊症の検査において、「精子の酸化ストレス」が新たな指標として近年注目されています。

酸化ストレスとは?

精子の状態は、老化や加齢のストレスが影響することにより、悪化することがわかっています。
老化は、活性酸素やフリーラジカルが原因として起こります。(活性酸素・フリーラジカルとは、反応性の高い酸化物質で、細胞に損傷をもたらし、体内で有害な作用を引き起こします。)

活性酸素やフリーラジカルが体に与える影響を「酸化ストレス」と言います。イメージとして、「酸化=体が錆びつく」と考えてください。

体の中で発生する老化の原因となる活性酸素・フリーラジカルと、それらを除去していく抗酸化物質のバランスが崩れると、細胞がダメージを受けます。

体で起こる多くの病気は、酸化ストレスが原因で起こります。
例えば、癌や心臓病は、若い人ではめったに起こることはありませんが、老化とともにその頻度が増加します。これは、癌や心臓病のほとんどが、老化のストレスである「酸化ストレス」が原因で起こっているためです 。

この他にも、酸化ストレスは、認知症や皮膚のしみ・しわ、目の白内障や腎臓病の原因となることがわかっています。

長い目で見ると、酸化ストレスは命に関わるような癌や心臓病を引き起こしますが、短い目で見ると、最初に悪化するのは生殖機能、つまり子供を作る力が衰えてしまいます。
酸化ストレスにより、精子と卵子が最初に悪化してしまうのです。

酸化ストレスが増える原因は?

酸化ストレスが増える原因

簡単に言えば「体に悪いこと」をすれば増えていきます。 例えば、タバコ、睡眠不足、運動不足、肥満、不適切な食生活が挙げられます。 不健康な生活をすればするほど、酸化ストレスが溜まっていき、老化が加速してしまいます。それに伴い、精子の質も低下してしまいます。

逆に、一般的な常識で「体にいいこと」をすれば、老化を食い止めることができます。 健康的な生活をすることで、抗酸化力が上昇して、酸化ストレスを低下させることにより、精液検査所見が改善する可能性があるのです。

精子が酸化ストレスを受けると?

精子が酸化ストレスを受けると?

精子が酸化ストレスを受けると、運動率低下や精子DNAの損傷が起こることにより、妊娠率の低下や流産率の増加につながることが分かっています。

例えば、男性不妊症の原因の一つである精索静脈瘤は、血液が逆流することにより、精子を作る精巣に酸化ストレスをかけることが判明しました1)。そのため、精液所見が悪化することがわかっています。

「酸化ストレス」で精子の質を再評価

一般に、精液検査では以下の項目が評価されます。

近年、上記に加えて「精子酸化ストレス」の測定が可能となりました。

精液中の酸化ストレスを測定することにより、今までの精液検査ではわからなかった男性不妊症の原因がわかる可能性があります。 また、精子濃度や運動率が正常であってもなかなか妊娠できない場合、精子酸化ストレスが高いこともわかっているのです。

不妊治療をしていても、なかなか結果が出ない場合は一度確認した方が良いかもしれません。

「酸化ストレス」を改善させる方法は?

精子酸化ストレスを低下させて、精液所見を改善させることができる方法は以下の通りです。

生活習慣の改善

酸化ストレスがかかるような不適切な生活習慣を改めることにより、精液所見を改善させることができます。 具体的には、良好な睡眠、禁煙、運動、ダイエット、健康的な食生活などです。 特別なことは何もなく、「当たり前の健康的な生活」が重要です。 逆に、「これだけをすれば精子の所見がよくなる」といった極端なこともありません。

抗酸化作用のあるサプリメント

酸化ストレスを低下させる抗酸化作用のあるサプリメントは、精子酸化ストレスを低下させ、精子の所見を改善させることができます。 例えば、コエンザイムQ10、オメガ3脂肪酸、亜鉛、セレン、カルニチンなどが精子所見を改善させて、パートナーの妊娠率を上昇させる可能性があることが報告されています2)

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤がある人に対しては、手術をすることにより精巣にかかる酸化ストレスを低下させて、精液所見を改善させることができます。

当クリニックでは、精子酸化ストレスの分析機械を導入しています。 精子酸化ストレスを酸化還元電位(Oxidation-reaction potential; ORP)という値で数値化し通常の精液検査では評価できない精子酸化ストレスを判定することが可能となっています。

この検査を行うことで、本人の治療のみならず、パートナーに行なっていく人工授精や体外受精など、今後の治療方針を決定していく指標にもなります。 男性不妊の原因を見つけるためにも、精子酸化ストレスの評価をお勧めしています。

1) Tanaka T, Kobori Y, et al. Seminal oxidation-reduction potential and sperm DNA fragmentation index increase among infertile men with varicocele. Hum Fertil (Camb). 2020 Jan 20:1-5.

2) Kobori Y, et al. Antioxidant cosupplementation therapy with vitamin C, vitamin E, and coenzyme Q10 in patients with oligoasthenozoospermia. Arch Ital Urol Androl. 2014 Mar 28;86(1):1-4.