男性不妊・メンズヘルス

無精子症とは

私が解説します

小堀 善友

小堀 善友
男性の性の健康に関する診療を担当。
■泌尿器科医 ■生殖医療専門医 ■性機能学会専門医 ■性科学会セックスセラピスト

無精子症とは

普通に射精は可能であるににもかかわらず、精液中に精子を認めない状態です。
100人に1人の男性は無精子症であると言われています。また、男性不妊症の10人に1人は無精子症である可能性があることがわかっています。1)

精子の形成

精子は精巣内の精細管と呼ばれる組織で作られ、精管へ運ばれていきます。
精細管の中で、精祖細胞という細胞が、セルトリ細胞から栄養をもらいながら、精母細胞、精子細胞へ順番に成長し、精子となります。

精子の形成図

無精子症の診断

精液検査をする際に、顕微鏡で精子を見つけることができなかった場合、遠心分離をかけて改めて精液を調べ直す必要があります。また、診断には必ず2回以上精液検査を受ける必要があります。

無精子症の種類

無精子症は、「閉塞性無精子症」「非閉塞性無精子症(高度の造精機能障害)」に分けられます。

「閉塞性無精子症」とは、精巣で精子は正常に作られているものの精子の通り道が欠損もしくは閉塞しているために精子が出てこない状態です。 また、「非閉塞性無精子症」は、精子の通り道は正常ですが精巣での精子形成が低下しているために精子が出てこないことを言います。

閉塞性無精子症

閉塞性無精子症

非閉塞性無精子症

非閉塞性無精子症

閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の判別は、精巣の大きさ/触診所見および採血(ホルモン)結果から推定しますが、両者の判別が困難な場合もしばしばあります。

無精子症の治療

閉塞性無精子症、非閉塞性無精子症いずれにおいても薬物療法による改善の見込みはほとんどありません。
(唯一、下垂体性性腺機能低下症 という病態でのみ、ホルモン補充療法が適応となります。その場合は、約90%の患者で精子採取が可能です。)

閉塞性無精子症:
可能であれば精路再建術(精管-精管吻合もしくは精管-精巣上体吻合)
再建不能なら精巣精子採取術+顕微授精
非閉塞性無精子症:
精巣精子採取術+顕微授精

原則として、手術療法が唯一の治療法です。顕微鏡を使う精密な手術であり、経験豊富な医師に執刀していただくのが望ましいです。

顕微鏡下精巣精子回収術(Micro-TESE)とは?

非閉塞性無精子症では、射精で出した精液中に精子がいなくても、精巣の一部の精細管で精子が作られていることがあります。 顕微鏡下精巣精子採取術(Micro-TESE)は、手術用顕微鏡を用いて精巣の中にある精細管を採取し、その中から精子を見つける方法です。

顕微鏡下精巣精子採取術(Micro-TESE)

顕微鏡下精巣精子回収術(Micro-TESE)の実際

精子を作っていない精細管は非常に細く色合いも透明に近いのですが、精子形成のある精細管は太く白濁して見えます。

手術用顕微鏡を用いてこのような精細管を採取し、精子がいる場合はこれを凍結保存し、顕微授精に備えます。 特定不妊治療の一環として男性不妊治療(Micro-TESE等の精子採取の手術)を実施した場合、助成金の申請ができるようになっている自治体があります。助成金を受けるには、いくつかの条件があります。詳細は、各自治体にお問い合わせください。

顕微鏡下精巣精子回収術(Micro-TESE)の成績

精子が回収できる可能性は、過去のデータから以下の通りです。2)

  • Cryptozoospermia :95%
  • 閉塞性無精子症  :ほぼ100%
  • 非閉塞性無精子症 :30%〜40%

※Cryptozoospermiaを日本語にすると「隠れ精子症」となります。 精液中に精子が極わずかに存在したり存在しなかったりする病態で、このような方の場合、精液中の精子を用いた顕微授精よりも精巣精子を用いた顕微授精の成績の方がよいことが報告されております。

精子採取の予測因子について

残念ながら精子が回収できるかどうかを術前に判別する指標は現在のところ存在しません。
唯一、遺伝子検査(AZF)によって手術を受けても100%精子が採取できない場合が判明します。
しかしながら、遺伝子異常がない場合に精子が採取できるというわけではありません。

AZF遺伝子

AZF遺伝子は男性だけがもつY染色体に存在する遺伝子群で、精子形成に関与します。
a、b、cの3つの領域に区別され、a領域やb領域の遺伝子が欠如している場合には精子の回収は見込めません。 c領域の欠失があった場合は、手術により精子採取できる可能性はありますが、その精子を体外受精に用いて男児ができた場合はY染色体が遺伝するので、子供も将来男性不妊症となります。

手術以外の対応

手術以外の選択肢としては、特別養子縁組や非配偶者間人工授精などがあります。
また、手術で精子が回収できなかった場合にもこれらの選択肢があります。

特別養子縁組

行政機関である児童相談所により里親制度の中で実施される方法と、民間の養子縁組団体によって実施される方法があります。 養親の年齢について、「子どもが成人したときに概ね 65 歳以下となるような年齢が望ましい」と厚生労働省の里親委託ガイドラインには書かれており、 子どもと養親との年齢差は45歳以下ということが推奨されますが、実際の認定基準は自治体によって様々です。

非配偶者間人工授精(AID)

第三者から提供された精子を用いて妊娠をはかる方法です。 施行できる施設は限られています。 AIDでの妊娠希望者については、夫婦の意思を十分に確認した上で、AID実施適応条件に適応しているかどうかを厳格に判定される必要があります。 また、この方法は他人の精液を用いると言う特殊な方法であり、倫理や宗教、法的問題も含まれます。
AID適応条件は以下の通りです。

1) The epidemiology and etiology of azoospermia. Clinics (Sao Paulo) . 2013;68 Suppl 1(Suppl 1):15-26.

2) A novel stepwise micro-TESE approach in non obstructive azoospermia. BMC Urol. 2016 May 12;16(1):20.