男性不妊・メンズヘルス

勃起と射精のメカニズム

私が解説します

小堀 善友

小堀 善友
男性の性の健康に関する診療を担当。
■泌尿器科医 ■生殖医療専門医 ■性機能学会専門医 ■性科学会セックスセラピスト

勃起と射精は、実は全く違う

一般的には、勃起をした後に射精をする場合がほとんどであるので、勃起と射精が一連の流れと考えている人が多いと思います。しかし、実は勃起と射精は神経的にも解剖学的にも、全く違う現象です

勃起はできるのに射精ができない人もいますし、その逆で勃起をしないまま射精をしてしまう場合もあります。

性機能に問題を感じた時、それぞれのプロセスのどこに問題があるのかを理解して対応する必要があります。
まずは、「勃起」と「射精」それぞれのメカニズムについて解説しましょう。

勃起のメカニズム

勃起は「陰茎に血が集まった状態」という単純な現象に思えますが、そのメカニズムは意外と複雑です。 神経や血管がきちんと連動して働くことが、勃起をするためには必要となります。

男性が性的刺激を受けると、脳から脊髄を通って刺激が副交感神経を通って伝達され、陰茎にて一酸化窒素(NO)が放出されます。 それがシグナルとなり、陰茎海綿体に血液が流入し、勃起を起こします。

勃起のメカニズム

逆に、陰茎海綿体にたまった血液を通常状態に戻す働きをするPDE5という酵素があります。 勃起障害の治療薬であるPDE5阻害薬は、このPDE5を減らしてあげることにより、勃起しやすい状況を作り上げることができるのです。

射精のメカニズム

勃起が副交感神経優位で起きるのに対し、射精は交感神経(下腹神経)を介して刺激が伝わります。
この刺激を受けると、精嚢と精管が縮んで膀胱の出口が閉じ、精液が尿道に送り出されます。
その後、陰部神経から刺激が伝わり、尿道を包む筋肉を収縮して精液を尿道から外に送り出すことができます。

わかりやすく説明すると、射精は以下の3つのプロセスに分かれて起こります。

1)Emission:
精子、精嚢の分泌液、前立腺液が前立腺内へ送られる
2)膀胱頸部の閉鎖:
膀胱側に精液が逆流しないように、膀胱頸部が閉じる
3)精液が尿道へ押し出される:
筋肉がリズミカルに動いて精液が尿道側へ押し出され、体外へでる(狭い意味での射精)

射精のメカニズム

これらのプロセスのどこかが障害が起きた場合、射精障害となってしまいます。 どこのプロセスが障害を受けたかを診断することにより、治療方針が異なってきます。

事例紹介

一口に勃起障害・射精障害といっても、その裏には色々な原因が隠れています。

ここからは、実際によくあるケースを見ていきましょう。

ケース1)勃起◯ → 射精×

Aさんは、10代の頃から、陰茎を布団や床などに圧迫すると快感を感じていて、圧迫する方法のマスターベーションを行なっていました。
このような不適切なマスターベーションをしていると、強い刺激でないと射精できなくなってしまうことがあります。

Aさんは、セックスで腟の中に入れても、普段のマスターベーションとは全く違う刺激であるため、何も感じませんでした。 そのため、腟の中で射精できない腟内射精障害 となってしまいました
Aさんは、セックスカウンセリングを受け、射精リハビリテーション(適切な刺激で射精できるようにする訓練)を行って、徐々に改善していきました。

ケース2)勃起× → 射精× → 不妊

Bさんは、子供を作ろうとしてタイミング法(奥様の排卵にあわせて性行為を行う方法)に取り組んでいたところ、勃起ができなくなってしまいました。

前述のように、勃起は副交感神経(リラックスしている状態)が優位な状況で起こり得ます。 ところが、「今日は頑張ってセックスしなくちゃいけない、子どもを作らなくてはいけない」と焦ってしまうと、緊張する神経である交感神経が優位となってしまい、勃起できなくなることがあります。 実際、不妊治療を行おうとしている男性の30%以上が勃起もしくは射精が困難であったことがわかっています。

Bさんは、PDE5阻害薬であるシアリスを用いることにより、勃起が可能となり、無事に奥様が妊娠することができました。 このような心因性の勃起障害に対しては、PDE5阻害薬を用いることで、80%以上の男性に効果があります。

ケース3)勃起◯→射精(Emission×)

60歳のCさんは徐々に尿の勢いが弱くなってきたので、泌尿器科を受診したところ、前立腺肥大症と診断を受けました。薬の処方を受け、内服を開始したところ、排尿状態は改善しましたが、射精をする際に精液が出なくなってしまいました。

高血圧や前立腺肥大症の治療薬であるαブロッカーを使うと、①Emissionができなくなってしまう(Emission lessと言います)ために、射精感はあるにもかかわらず、精液が出てこなくなってしまいます。
Cさんは、射精ができなくなったことを担当医師に相談したところ、αブロッカー以外の前立腺肥大症治療薬に変更してもらいました。その後、射精もできるようになり、排尿状態も改善して経過は順調です。

ケース4)勃起◯→射精(膀胱頸部の閉鎖×)

糖尿病の治療中であるDさんは、射精する感覚はあるのにもかかわらず、徐々に精液の量が減ってきていると感じていました。最終的には、ほとんど精液が出なくなってしまいました。 結婚をしたばかりで、これからお子様を作っていこうと考えていたので、困ってクリニックを受診しました。

糖尿病や脊髄損傷などの神経障害や、前立腺肥大症の手術後で②膀胱頸部の閉鎖が起きなくなってしまう場合は、膀胱内に精液が逆流してしまうために、射精液量が減少してしまう「逆行性射精」が起きてしまいます。
そのような場合は、膀胱頸部を閉めることができる三環系抗うつ薬の副反応を利用することにより、射精が可能となります。

Dさんは性行為をする前に三環系抗うつ薬の「アモキサン」という薬を内服することにより、射精する際に精液が再び出てくるようになりました。 普通に性行為も可能となっています。

単に、「勃起ができない、射精ができない」、ように見えていても、紐解いていくと原因は様々で、それぞれのメカニズムのどこに障害があるかによって、治療方針は全く変わってきます。
診断するためには、十分な問診と検査が必要となります。
勃起と射精にお困りの方は、ぜひご相談ください。