精子の動きは、オタマジャクシ?
精子の動き(運動)は、受精するためにとても重要なことであることがわかっています。精子は、卵子の周りにいるだけでは受精することはできません。活発な運動をしている精子が、「受精能獲得(capacitation)」という過程を得て、受精することができるようになります。精子の運動は、受精にとってとても重要なことです。
精子の運動については、皆さんもご存知かと思われますが、オタマジャクシのように尻尾を勢いよく振りながら進んでいくと考えられていました。確かに、テレビのような2Dの顕微鏡で見るとそのように見えますが、実際はどのように動いているのか?
精子は回転しながら前進
最近、興味深いニュースがありました。
「精子は回転しながら前進」 300年以上の定説を覆す イギリスなど研究
精子は、回転しながら前進している、という研究です。
ニュースの動画を見ていただければわかると思いますが、まるでドラゴンボールのピッコロさんの必殺技「魔貫光殺砲」のようにグルグル回転しながら進んでいくというのです。(わかる人にはわかっていただけると思います。ピッコロさんが、ラディッツを悟空ごと貫いたあの技です。)
実は、このニュースはちょっと間違っています。元の論文を読んでみたのですが、論文自体が発表しているのは「精子が回転しながら前進している」ということではありません。
精子が回転しながら前進していることは、5年前の論文にも発表されていました。最新の発見というわけではなかったのです。
Figure 1: Sperm navigate along helical paths.
出典:Sperm navigation along helical paths in 3D chemoattractant landscapes
上記の絵は、その論文から抜粋したものです。(オープンアクセスの論文であり、図は上記サイトにいけばダウンロード可能です)
顕微鏡の技術が発達してきて、今までのような2Dの顕微鏡だけでなく、3Dビデオ顕微鏡が使えるようになり、精子の動きにも新しい発見があったのでした。5年前の時点で、精子は回転しながら螺旋状に前進していくことがわかっています。
精子は尻尾の動きをコントロールし、進んでいる
さて、今回の発見は、高速3Dビデオ顕微鏡を用いることにより、精子のべん毛(尻尾)の動きが「左右非対称」になっており、それを見事にコントロールすることにより、精子が回転しながら前進することができる、ということを証明した論文でした。
Fig. 2 3D flagellar beating of human spermatozoa.
図を見ていただくとわかるのですが、精子の尻尾は単純に回転しているわけではないのです。それを上からもしくは横から2Dで見るとオタマジャクシのように尻尾を動かしながら前進しているように見えるのですが、実際は綿密に分子レベルで計算された左右非対称の複雑な動きをしていることが判明したのです。
精子の動きは、受精する能力にも関わってくるので、非常に重要です。最新の技術を用いて研究が進むことにより、不妊症の原因究明につながることが期待されています。