精子の運動に関わる遺伝子を発見

先日、興味深いニュースがありました。
大阪大学から、精子の運動に関わる遺伝子を発見したという報告がありました。

精子は、頭部、中片部、鞭毛(べんもう)という3つのパーツに分かれています。
その、中片部(精子のシッポの根元の部分)に、ミトコンドリアが整列して並んで働くことで、精子の動きをコントロールしています。

精子は、頭部、中片部、鞭毛(べんもう)という3つのパーツに分かれています

このミトコンドリアをくっつける働きをする遺伝子であるARMC12という遺伝子を働かなくすると、ミトコンドリアが連携を取れて働かなくなり、精子が動くことができなくなってしまうのです。

ミトコンドリアは、ほとんど全ての細胞の中にある、エネルギー源のようなものと考えてください。もともと、中片部にはミトコンドリアが集合していることがわかっていました。
今回の研究は、このミトコンドリアがどのように連携を持って働いて、精子の尻尾である鞭毛を動かしているのかを突き止めた意義深いものです。

精子が動かなくなるカルタゲナー症候群とは?

実は、精子が全く動かなくなる病気もあります。
その一つとして、カルタゲナー症候群(繊毛機能不全症候群)という病気があります。

カルタゲナー症候群は、生まれつき、身体中の繊毛(せんもう)の働きが障害されてしまう病気です。繊毛は、耳や鼻やのどにあり、ホコリや細菌などが体に入ってくるのを防いでくれる働きをします。たくさん生えている毛がゴミを外に掻き出しているような状態をイメージしてください。それができなくなると、体の中にホコリや細菌が簡単に入ってこられるようになってしまいます。そのために、慢性副鼻腔炎や、気管支拡張症などといった病気を引き起こしてしまうのです。

繊毛の動きが障害されてしまう病気なので、当然精子の鞭毛も動かなくなってしまいます
そのため、射精された精液の中に精子がたくさんいたとしても、精子は全く動くことができないので、男性不妊症となってしまいます。
この場合、顕微授精が必要となりますが、顕微受精を用いてもカルタゲナー症候群の人の精子では子供ができづらいことがわかっています。

心臓が右側に!?

カルタゲナー症候群のもう一つの特徴として、内臓逆位という症状があります。これは、胎児期(生まれる前のお腹の赤ちゃん)に繊毛が機能しないと、水流を発生させることができないため、内臓を移動させることができず、心臓や内臓が左右逆になってしまうのです。そのため、カルタゲナー症候群の人は心臓が右側にあります。

全くの余談ですが、「北斗の拳」という漫画の中に、南斗鳳凰拳の使い手であるサウザーという敵が出てきます。北斗の拳の主人公であるケンシロウは、敵の経絡秘孔(ツボみたいなもの)を突くことで、内臓から破壊するという北斗神拳の使い手でしたが、サウザーには北斗神拳が通用しませんでした。実はサウザーの体には、秘孔が左右逆だった、という秘密が隠されていたのです。今から考えると、サウザーはカルタゲナー症候群だったのかなあ、なんて考えてしまいます。

 

話は精子の動きの話に戻りますが、今回の大阪大学の発見は、男性不妊症の新しい治療へのきっかけとなるかもしれません。逆に、この遺伝子をノックアウトすることができれば、精子が動かなくなるので、新しい避妊薬ができるかもしれませんね。

 

参考文献

Keisuke Shimada, et al. ARMC12 regulates spatiotemporal mitochondrial dynamics during spermiogenesis and is required for male fertility”.https://www.pnas.org/content/118/6/e2018355118

大坂大学. “精子ミトコンドリア鞘形成の分子メカニズムを解明”. 2021-2-2. https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210202_1 .