そもそも、この題名を見て、こちらのブログ読んでいる人はマニアックな人だと思いますが、今回はAMH(アンチミュラーリアンホルモン)が男性に及ぼす影響について解説したいと思います。

不妊治療におけるAMH

AMHはどちらかというと女性に検査されることが多い検査です。というか、男性で測定する人はまずいません。

AMHは「卵巣予備能」の目安となる評価指標で、不妊治療の領域では近年話題となっている検査です。卵子の質は、年齢の影響を直接受け、卵子の数も年齢とともにどんどん減っていきます。その数は年齢以上に個人差が大きく、いざ子供が欲しいと思った時に卵子がないということがおきます。

卵巣の予備能は今までのホルモン検査ではよくわかりませんでした。AMHはその指標であり、また他のホルモンと違い、月経周期のいつ測ってもよい血液検査です。
ただし、AMHの値がそのまま妊娠に結びつくわけではなく、あくまでも治療方針決定のための一つの材料としてお考えください。
また、保険診療で測定することはできず、自費診療での検査となります。

そもそも、AMHって何?

生物の発生の授業で「男は狼だからウルフ(ウォルフ管)、女は鏡を見るからミラー(ミュラー管)」って習わなかったでしょうか?
赤ちゃんが生まれる前、お母さんのお腹の中の胎児の時期に、それぞれウォルフ管が男性の生殖器へ、ミュラー管は女性の生殖器へと形成されていきます。

ミュラー管とウォルフ管

胎児の精巣にあるセルトリ細胞から、男児の生殖器を形成するために、ミュラー管を退行させるホルモンが出てきます。
これが抗ミュラー管ホルモンつまりAMH(アンチミュラーリアンホルモン)です。AMHが出てくるために、ミュラー管はなくなって、ウォルフ管が発達することにより、男性生殖器が出来上がるのです。

成人女性の卵巣にある顆粒膜細胞からもAMHは分泌されており、その卵胞との関係から、AMHは卵巣の予備能を評価する指標となることがわかってきました。

そもそも、AMHは男になるためにあるホルモンなのです。
また、女性の生殖器の元となるミュラー管を退行させるためのホルモンが、卵巣の能力を測定することができるなんて、面白いことだと思います。(これを思いついた人の方が素晴らしいです)

男性のAMHレベルと死亡率は逆相関する

AMHは、男性においては思春期まで上昇したままですが、成人を過ぎると急激に低下します。成人期のAMHの役割は不明ですが、いくつかの臓器(副腎、肝臓、肺、骨格筋、脾臓など)にAMHの受容体があることが判明しています。つまり、生殖器の発達が終わった成人期においても、AMHが男性の体に何らかの作用を及ぼす可能性があることを示唆しています。

実際、疫学研究において、高齢男性のAMHレベルが心筋梗塞などの心血管イベントや、大動脈瘤という病気の原因となる大動脈の太さと関連していることがわかってきました。また、炎症や癌の進行度のマーカーとなるCRPという検査値が低いほど、AMHのレベルが高いこともわかりました。つまり、AMHレベルが男性の全ての死亡率と逆相関することがわかったのです。簡単にいうと、AMHが高ければ高いほど長生きすることができるということです。しかし、この正確なメカニズムはいまだにわかっていません。

私もAMHを自分で測ってみました

そこで、私もAMHを実験目的に測定してみました。

私のAMHレベルは7.62ng/mlという値でした。一般の女性の値と比較するとかなり高い値ですが、論文に書かれているデータと比較すると、45歳の男性としては一般的な値でした。
多分、私は今の日本でAMHを測定している唯一の男ではないかと考えています。(どこかの大学が実験していれば別ですが)

現在の不妊治療で女性に用いられているAMHは、将来の男性の健康のマーカーとなるかもしれませんね。

<参考文献>

Qayyum, R., Akbar, S. Serum anti-mullerian hormone and all-cause mortality in men. Endocrine 54, 225–231 (2016).https://doi.org/10.1007/s12020-016-1071-x

Kadariya, D., Kurbanova, N. & Qayyum, R. Association of Anti-Mullerian Hormone with C-Reactive Protein in Men. Sci Rep 9, 13081 (2019).https://doi.org/10.1038/s41598-019-49596-x