当院では、加齢に伴う男性ホルモンの低下に起因する「男性更年期障害(Late-Onset Hypogonadism:LOH症候群)」に対し、長期間にわたって効果を発揮する男性ホルモン注射療法を新たに導入いたしました。

男性更年期障害(LOH症候群)とは?

男性更年期障害とは、男性ホルモン(テストステロン)の分泌が加齢とともに徐々に低下することで、身体的・精神的・性機能的なさまざまな不調を引き起こす状態を指します。女性の更年期と異なり、男性の場合はホルモン低下が緩やかに進行するため、自覚されにくいことがあります。詳しくは、以下のページをご参照ください。
男性更年期障害とは

具体的な症状には以下のようなものがあります:

  • やる気が出ない、気分が落ち込む
  • 眠りが浅い、疲れが取れにくい
  • 性欲の低下、勃起機能の低下
  • 筋肉量の減少、体脂肪の増加
  • 骨密度の低下、貧血傾向 など

男性ホルモンは、体内のあらゆる臓器に作用しています。各臓器における代表的な作用は以下の通りです:

  • :やる気・活力の向上、情緒の安定、性欲の維持
  • 筋肉:筋肉量の増加、基礎代謝の改善、体脂肪の減少
  • 骨・骨髄:骨密度の維持、赤血球の産生促進
  • 生殖器:性機能(勃起・射精)の維持、精子形成の補助

テストステロンが不足すると、これらの機能が次第に低下し、QOL(生活の質)の著しい低下を招くことがあります。

男性ホルモンの作用

 

なぜ日本国内ではテストステロン注射製剤が不足しているのか?

従来、当院では短期間型のテストステロン製剤「エナルモンデポー」(有効成分:テストステロンエナント酸エステル)を用いて治療を行ってきました。この製剤は23週間ごとに注射が必要であり、継続的な通院が求められます。

しかし近年、全国的にエナルモンをはじめとする男性ホルモン注射製剤の供給が不安定となっており、治療の継続が困難な状況が生じています。その背景には以下のような要因が挙げられます:

原薬の供給不安定化

ホルモン製剤の多くは、有効成分を海外から輸入して製造されています。新型コロナウイルスの世界的流行を契機に、原薬の生産停止や輸送の遅延が頻発し、供給網が大きく乱れました。

ジェネリックメーカーの撤退・承認取消

日本ではホルモン製剤が採算の合いにくい分野であるため、製造から撤退する企業が増加しています。一部の製剤は承認そのものが取り下げられた事例もあります。

このような状況下で、患者さまが治療を希望されても「注射薬が入荷できない」という理由で治療を断念せざるを得ないケースが生じていました。そこで当院では、より安定供給が可能で、世界的にも推奨されている「長期間作用型テストステロン製剤」の導入を決定しました。

世界のガイドラインで推奨される長期間型テストステロン製剤とは?

欧州泌尿器科学会(EAU)の「Sexual and Reproductive Health」に関する最新ガイドラインでは、男性更年期障害の治療として、長期間作用型テストステロン製剤である「ウンデカン酸テストステロン」の使用が推奨されています。

この製剤は、1回の筋肉注射で約1014週間(平均3か月)にわたり、安定したテストステロン血中濃度を維持できる特徴があります。すなわち、3か月に1回の注射で済むため、通院の負担が大幅に軽減され、ライフスタイルへの適応もしやすくなります。

なぜ「長持ち」するのか

長期間型テストステロン製剤が長く効果を発揮する理由は、化学構造にあります。注射剤は、テストステロンに長鎖の脂肪酸(ウンデカン酸)が結合された「エステル化テストステロン」として製剤化されています。このエステル鎖が長いほど脂溶性が高く、筋肉組織内に長期間留まり、徐々に体内で加水分解されてテストステロンが放出されます。

また、この製剤は注射容量が4mlと比較的多いため、投与後の血中濃度の持続性が高いことも特徴のひとつです。1)

男性のブースト機能としてのテストステロン補充療法

近年、「特に病気ではないが、なんとなく元気が出ない」「気力が続かない」といった男性の訴えが増加しています。そうした方々の中には、加齢によるテストステロン低下、すなわちLOH症候群が隠れているケースが少なくありません。

テストステロン補充療法は、単に性機能を回復させる治療ではなく、男性の全身状態をブーストする治療です。

  • 脳の働き:気分が安定し、抑うつ感が和らぐ
  • 筋肉・骨格系:筋肉量の維持・増強、骨密度の向上
  • 代謝系:基礎代謝の改善による体重管理
  • 性機能:勃起・射精機能の改善、性欲の回復

まさに、若々しさと活力を取り戻すためのエネルギー源として、テストステロンは重要な役割を果たしています。

ただし、治療には前立腺疾患(特に前立腺がん)や多血症、肝機能障害などのリスクも伴うため、事前の血液検査やPSA検査、定期的なモニタリングが不可欠です。当院では、必要な安全管理を徹底しながら治療を行っております。

ご相談をご希望の方へ

男性更年期障害は、年齢のせいと諦めてしまいがちな症状に対し、科学的根拠に基づいてアプローチできる現代的な治療です。3か月に1回の注射で、日々の生活に活力を取り戻す選択肢として、ぜひご検討ください。

気になる症状がある方、すでに他院で治療中だが効果が感じられない方も含め、当院ではいつでもご相談を受け付けております。まずは一度、お気軽にご来院ください。

参考文献
1)European Association of Urology (EAU). Uroweb.org ガイドライン「Sexual and Reproductive Health」(accessed 2025-07-10).