男性の性の健康を扱う医療において、治療薬として漢方薬を使うこともあります。今回は、ED(勃起障害)・男性更年期障害、男性不妊症の治療で使われる漢方薬についてご紹介します。

漢方薬は大きく2つに分けられます

多くの漢方薬は、その人の症状や体質に合ったものでないと、十分に効果を発揮することができません。その人の体質を見分ける方法として、「証(しょう)」という考え方があります。
簡単に分けると、以下のようになります。

虚証リスト実証リスト

それぞれの証と症状に合わせて、漢方薬は使用されます。ただし、証に関係なく、症状などから判断して漢方薬を処方されるケースもあります。

ED(勃起障害)・射精障害に対する漢方薬

ED治療薬のファーストチョイスはPDE5阻害薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)です。PDE5阻害薬は有効性、安全性が高いことが知られていますが、その作用機序から硝酸剤(狭心症の薬)との併用することができません

ED・射精障害治療に対する漢方薬として、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)があげられます。この薬剤は、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状がある場合に使用され、種々のストレスによるEDに対して処方されます。

漢方薬は長く飲まないと効かない、もしくは副作用がないとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。漢方薬は即効性があり、副作用が出ることもあります

当薬剤はオウゴンという生薬が配合されているため、肝機能障害の副作用が出る可能性があり、注意が必要です。

八味地黄丸(はちみじおうがん)も有効であるとの報告がありますが、セックスをすることを最終目標とすると、PDE5阻害薬には効果は及ばないのが実情です。しかし、勃起力の改善を認めることもあり、中でも心因性EDには効果があると報告されています。

男性更年期障害(LOH症候群)に対する漢方薬

男性更年期障害(LOH症候群)は、加齢による男性ホルモン低下に起因する精神的・身体的および性機能関連症状を呈する状態であり、その治療の原則は低下した男性ホルモン補充療法です。
しかし、症状があっても男性ホルモン値が低値でないために、男性ホルモン補充療法の適応にならなかったり、多血症、肝機能障害、PSA(前立腺癌の腫瘍マーカー)高値、睡眠時無呼吸症候群などのため男性ホルモン補充療法を行うことができない場合もあり、他の選択肢が必要となる場合があります。

女性の更年期障害に対しては、
以前より、
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
による加療が行われており、男性にも同様の漢方薬の効果が期待できます。

漢方薬の使い分けは本来「証」を考慮して行うべきで、当帰芍薬散は虚証、加味逍遙散は中間証、桂枝茯苓丸は実証に適しています。

また、前立腺癌に対するホルモン療法は男性ホルモンがほとんどゼロになるため、男性更年期症状が起こることがあります。ホルモン療法の副作用で起こるホットフラッシュ(急に汗が出る症状)に対して、桂枝茯苓丸が効果的です。

男性不妊症に対する漢方薬

現在、6カップルに1組は不妊症であり、その原因の半分は男性であると報告されています。

男性不妊症の原因の80%は造精機能障害です。原因が精索静脈瘤や閉塞性無精子症と判明している場合には手術が行われますが、原因の半数以上が不明(特発性造精機能障害)であり治療が難渋したり、女性側の生殖補助医療にたよらざるを得ないケースも多いです。

特発性の造精機能障害には、加齢による酸化ストレスを減少させるために、生活習慣の改善や抗酸化剤の使用が推奨されています。

男性不妊症領域では、虚証患者に対して補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を使用することにより、精子運動率の上昇が期待できます。また、実証患者に対して柴胡加竜骨牡蛎湯を用いることにより、酸化ストレスを低下させ、精子濃度と運動率の改善が期待できると報告されています。

男性不妊症に対する漢方薬の表

 

それぞれの漢方薬の世界的な大きなエビデンスは存在しません。しかし、西洋では使われていないので、データがないのは仕方がないかもしれません。それぞれの疾患に効果的であるという日本国内での報告は多く、標準療法の補助的治療法として積極的にお勧めしても良いと考えられます。