久しぶりに自分の精液を調べてみました

私は、男性不妊診療を仕事にしておりますので、患者さんの精液を調べることはたくさんあります。ただ、自分の精液検査を行うことは、最近はありませんでした。この前、久しぶりに自分の精液検査をしてみたら、そのデータにビックリしたというお話をします。

実験のため、自分の精液を持ち歩く日々

そもそも、私はアメリカに留学中の研究テーマは「スマートフォン精液検査の開発」であったので、精液検査の実験をたくさん行っていました。その時には、病院に来院された患者さんの精液を使わせていただき、微小の顕微鏡を用いてスマートフォンのカメラで精子がどのように見えるかと言う研究を試行錯誤しながら行なっていました。ただし、毎日実験で使用できるような精液が手に入るとは限らず、適切な精液の検体がない場合があったのです。そんな時は、実験ができなくなってしまったのですが、「自分の精液を実験に用いれば良い」と途中で気がついて、毎日自分の精液をアメリカの大学病院に行く前に採取して、実験に使っていました。電車で通勤していたのですが、毎日自分の精液をカバンに入れて持ち歩いていたのです。

精液検査の基準値

さて、精液検査の適正な値についてですが、2010年にWHO(世界保健機構)より、以下の基準値が定められています。

精液検査の適正な値

 

これらの値は、「正常範囲」というわけではありません。わかりやすくいうと、これ以上あればギリギリ自然妊娠ができる最低限の値、というものです。
一般的に、1回の射精で精液量1.5ml以上、精子濃度1,500万個/ml、精子運動率40%というのが目安となっています。ガイドラインにも記載されているのですが、精液検査と言うものは、なんと誤差が10倍も出る検査です。そのため、1回の検査のみでは本当に不妊症かわからないこともあり、2回以上の検査が必要となります。

5年前と現在の値を比較

ちなみに、5年前(私が40歳の時)に実験で私の精液検査をよく行っていた時は、大体精子濃度は2,000-3,000万個/ml、運動率は60-80%ほどでした(これでも、それほど良い値というわけではないです)。ただし、私はその時点で子供が4人いましたし、それ以上作るつもりもなかったので、それほど自分の精液検査の結果に関心を持っていませんでした。

今回、たまたま実験をするために、久しぶりに精液検査をする機会がありました。
45歳の私が5年ぶりに精液検査を行なってみると・・・
なんと、精子濃度は500万個/ml、運動率は30%と基準を大きく下回っていたのです。
明らかに不妊症のデータであり、自然妊娠はほぼ不可能であることがわかりました。
これには、ショックを隠しきれませんでした。

精液検査と年齢の関係

精液検査と年齢の関係

精液検査と年齢の関係

Figure 1. The relationship between age in years and semen volume (A), concentration (B), count (C), sperm motility (D), progressive motility (E) and total progressively motile sperm (F).

出典:Hum Reprod, Volume 18, Issue 2, February 2003, Pages 447–454, https://doi.org/10.1093/humrep/deg107

精子と年齢の関係を調査した研究はたくさんあります。その1例としてのグラフを示します。
精液量、精子濃度、総精子数、運動率、直進運動率、総運動精子が年齢と共に低下していくことがわかります。様々な論文を集めたレビューを参照すると、おおよそ35歳から精液量と精子運動率は有意に低下することが示されています。

女性の妊娠率も、35歳を過ぎると急激に低下することがわかっています。女性の卵子の老化はよく知られていますが、男性の精子を作る力も35歳を過ぎると低下してくるのです。そのため、パートナーを妊娠させる力も低下していきます。ただし、体外受精の成績は男性の年齢に大きな影響を受けないこともわかっています(女性は年齢の影響を大きく受けます)。

不妊症の外来をしていても、第2子不妊にお悩みで来院される方をたくさんお見かけします。第2子不妊の場合、1人目の子供は比較的簡単に自然妊娠したのにもかかわらず、2人目がなかなかできないためにクリニックを訪れられるパターンもあるのです。その多くの場合は35歳を過ぎた方が多いと思います。35歳と言う年齢は、普段は健康であり、自分の老化なんて気にもしない年齢と思われます。しかし、精巣や卵巣といった生殖に関わる臓器は明らかに老化してきているのです。

平均年齢は80歳を超えるまで伸びましたが、実は生殖ができる年齢は伸びていません。「ヒト」と言う動物は、35歳を過ぎると明らかに子供を作る力、つまり生殖能力が低下してきます。

私自身、久しぶりに精液検査を行なって、自分自身の生殖機能の老化に気づかされました。不妊症に関してお悩みの方は、ぜひお早めにご相談ください。

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