2018年5月31日~6月3日 第117回「日本皮膚科学会総会」が広島市で開催されました。 6月1日に教育講演を行ってきましたので、報告いたします。
会場はNTTクレドホールでセッションのテーマは「粘膜病変の診断と治療」です。 オーガナイザーは鶴田大輔先生(大阪市立大)、石井文人先生(久留米大学)です。 私の演題名は『梅毒外来の臨床現場』です。
皆さまご承知の通り梅毒は現在、社会問題化しており関心が高いため多くの先生方が聴講されました。
最近の日本の梅毒の特徴
最近の日本の梅毒の特徴は、原因は解明されていませんが、若い女性に増加しています。大都市中心に感染者が増加していますが、地方都市にも拡大しています。
若い医師は梅毒の診療経験がほとんどありません。 症状は極めて多彩で“偽装の達人”と言われており、第1期症状と第2期症状が混在することがあります。 また、進行形態が複雑化しています。検査データに翻弄される症例が多くみられます。
日本の治療は日本独自のものでガラパゴス的で、世界の標準とは異なるものです。
診断においては初期硬結や硬性下疳は見逃してはなりません。 性器ヘルペスとの混合感染が増加しています。 女性の硬性下疳は無症状なため約50%近く見過ごされていると考えられます。
また他の性感染症と重複感染することがあるので問診、診察は丁寧に行うことが必要です。
性器外(口唇、口腔内、乳房、乳輪など)に硬性下疳が発症することがあるので注意が必要です。
顕症梅毒では、皮膚症状にとらわれず外陰部も診ることが大事
顕症梅毒においての視診のポイントは第1期症状(初期硬結・硬性下疳・鼠径部リンパ節無痛性腫脹)と第2期症状(バラ疹など)が混在することがあるので、皮膚症状にとらわれず、外陰部の診察も行うべきです。
梅毒の口腔咽頭の症状
第1期には口唇、舌、頬粘膜、咽頭に硬性下疳が発症することがあります。その80%以上に頸部リンパ節の腫脹、疼痛を伴うことがあります。[Leuciら(2013)の報告]
第2期には口腔咽頭に粘膜斑、潰瘍、丘疹、扁桃腺炎、喉頭炎などが見られることがあります。口腔咽頭病変は重要な所見です。[Torres T.Machadoら(2010)の報告]
また井戸田一朗(2018)の報告によれば乳白斑・Butterfly appearanceが高頻度に見られるといいます。 乳白斑は軟口蓋に弧状に広がり、辺縁に発赤を伴い、比較的境界が明瞭な灰白色の粘膜疹、無症状かつ両側性です。
Butterfly appearanceはTp(トレポネーマ)の排出量が多く感染性が強いとされています。 口腔咽頭梅毒は臨床現場ではかなり見逃されていると考えられます。 梅毒の診察に際して、口腔咽頭、性器、肛門の視診が必要であると強調しています。
梅毒未治療患者の自然経過
未治療患者の自然経過ですが、感染後、第1期、第2期、早期潜伏、後期潜伏を経て第3期梅毒に移行します。 また後期潜伏から第2期へ、早期潜伏から第2期に、第1期・第2期から早期神経梅毒へ移行していくと考えられています。
このように再燃を繰り返しながら症状は軽症化するといえます。 これらの状態をサーキット形成と称しています。
そして早期神経梅毒から後期神経梅毒へと進んでいくとされています。神経梅毒を疑った場合は髄液の梅毒反応のチェックが必要です。
梅毒の診断・検査
梅毒の検査は大きく分けて2種類あります。
一つは、病変部位から直接検体を採取し梅毒トレポネーマ(Tp)の検出をする方法です。 検体を染色し顕微鏡を用いて螺旋状菌を観察します。 ただ、この検査は操作が煩雑・複雑で熟練を要するため、あまり行われていません。
二つ目として、通常は梅毒血清反応で脂質抗原法(STS)とTp抗原法を組み合わせて行います。 また、現在は研究室レベルですが、病変部位から検体を採取し核酸検出法PCR検査が試みられています。 直ちに診断でき、即治療が可能となります。PCR検査の開発が望まれます。
梅毒の治療
2016年の日本性感染症学会の治療ガイドラインに則った治療が標準的ですが、日本の梅毒の治療は世界の治療法とは違っており、ガラパゴス的で日本独自の治療方法です。
世界的にはペニシリンGの筋肉注射が標準治療です。単回投与で感染性の高い第1期、第2期梅毒の治療が完了できます。日本では長期間の内服が必要となりなす。
臨床医の心得
- 梅毒を見逃さないこと。
- 梅毒を疑ったら検査を積極的に。
- 梅毒ではない人を梅毒にしないこと。
- 問診を丁寧に。
- 梅毒を診断したら届出を。
- 梅毒を診断したらHIV検査を勧める。
まとめ -梅毒 早期発見のコツー
- 梅毒を疑ったら積極的に検査すること。
- 梅毒の初期では、血清反応が陰性になることがあるので、時期をみて再検査すること。
- 問診はプライバシーに配慮しつつも積極的に行うこと。何時、誰と、何処で、何をしたのか。患者背景などを聴取する。
- 必要があれば梅毒迅速検査も積極的に行うこと。
- 潰瘍病変は自覚症状が乏しいので、外陰部の視診は丁寧にすること。特に女性は自覚症状が乏しいので注意が必要です。
- オーラルセックスでも感染することを忘れないでください。
- 梅毒と他の性感染症の混合感染を忘れずに。
- 臨床医は梅毒について精通していることが必要です。
以上、長くなりましたが、報告を終わります。