先日、MtFMale to Female:つまり、もともと生物学的には男性の体であるが、性自認は女性である人)の性別適合手術(せいべつてきごうしゅじゅつ)を受けた方から、性感染症のスクリーニング検査を受けたいとの相談がありました。

性別適合手術を受けたトランスジェンダーの人は、性器の形が男性から女性へ、もしくは女性から男性へ変わってしまっています。そんな人たちに対して、性感染症の検査はどのようにしたらよいのでしょうか?日本では、この件についてはほとんど知られていません。

性感染症スクリーニング検査とは

性感染症スクリーニングとは、一般的に男性では、陰茎の尿道にクラミジアや淋菌が感染する可能性があるために、尿の検査を行います。また、女性では腟のぬぐい液を検査に用います。血液検査にてHIV、梅毒、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスを調べますが、それは男女共通です。

性感染症検査の検査物と項目

 

実は、米国では性別適合手術を受けたトランスジェンダーの人に、どのような性感染症検査をすればよいか、ガイドラインが示されています。
ここでは、性別適合手術についてご紹介しながら、それらのガイドラインで提唱されている内容をまとめてみました。

性別適合手術(SRS)とは

トランスジェンダーの人に対してホルモン治療後に性別適合手術が行われる場合があります。性別適合手術とは、以前は性転換手術といわれていたものです。性別の不一致、性同一性障害を抱えているトランスジェンダーの人に対して、当事者の性同一性に合わせて外科的手法により形態を変更する手術療法のうちの、内外性器に関する手術を指します。Sex Reassignment Surgery: SRSの訳語であり、性別再割り当て手術、性別再指定手術、性別再判定手術などの名称もあります。日本GID学会、日本精神神経学会では「性別適合手術」を正式な名称としています。

女性の体から、男性の体へ

女性から男性への陰部を形成する手術では、いくつかの段階に分けて手術が行われます。

  1. 子宮卵巣摘出術
  2. 腟粘膜切除・腟閉鎖術
  3. 尿道延長術:陰茎に通すための尿道を形成します。
  4. 陰茎形成術:皮弁という血流のある皮膚の組織を使用して、陰茎を形成します。
  5. 陰嚢形成術:大陰唇の組織の内部へシリコンプロテーゼを挿入し、陰嚢の形状に形成する。

男性の体から、女性の体へ

男性から女性への手術も、同様に段階に分けて手術が行われます。

  1. 精巣、海綿体、陰茎摘出術
  2. 陰核形成術:血管と神経をつないだまま、亀頭部の三分の一をクリトリスに形成します。
  3. 腟形成術:陰嚢と、陰茎皮膚を用いて腟を形成します。陰茎皮膚を反転させることにより、腟の奥行きを作り出すことができます。大腸を使用する術式もあります。

上記説明のごとく、非常に複雑な手術です。そのために、術後に皮膚が壊死するなどのトラブルが起こることもあり得ます。

性別適合手術後(SRS)の性感染症スクリーニング

性別適合手術を行った後には、セックスをすることが可能になります。そのため、セックスで感染してしまう性感染症が起こる可能性があるのです。しかし、解剖学的には本来の陰茎や腟とは違う組織であるため、通常と同じ検査を行ってよいわけではありません。

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が2015年に性感染症治療ガイドラインを発表していますが、そこではトランスジェンダーの人も性感染症スクリーニング検査を受けるべきとだけ書かれてあり、具体的な内容までは記載されていませんでした。調べてみると、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)で推奨しているガイドラインには性別適合手術を受けた後に、どのような性感染症スクリーニングを行うべきかを示していましたので、それについて箇条書きに概説いたします。

トランスジェンダー女性(男性の体から女性の体になった人)に対する性感染症スクリーニング検査

  • 陰茎皮膚を反転させて腟を作った場合、その場所にヘルペスや梅毒が感染する可能性あり
  • 尿道の粘膜を用いた手術の場合は、そこにクラミジアや淋菌が感染する可能性あり
  • 腟は盲端(一方の端が閉じている管)になっているため、検査の時は肛門鏡が有用
  • 尿道と前立腺は残存しているので、そこに淋菌やクラミジアが感染する可能性があり、尿検査は必須
  • 形成された腟に淋菌やクラミジアが感染する可能性はわかっていない
  • 作られた腟はあるが、子宮頸部があるわけではないので、HPV(ヒトパピローマウイルス)のスクリーニングは不要

つまり、男性と同様に尿中にクラミジアか淋菌がいないかどうかを検査する必要があります。

トランスジェンダー男性(女性の体から男性の体になった人)に対する性感染症スクリーニング検査

  • 陰茎形成術後に、萎縮した腟が残存している可能性があるため子宮頸がんのスクリーニングが必要
  • 形成した陰茎の感染については明らかになっていない

トランスジェンダーで手術された人は、性別適合手術前のもともとの生物学的性別の検査が必要となるわけです。

自分自身と、パートナーを性感染症から守るためにも、適切な検査を受けていただくことが望まれます。状態が複雑である可能性もあるため、お困りの症状があるときは、医師と相談して検査を受けてください。

参考文献

https://www.cdc.gov/std/tg2015/default.htm
https://transcare.ucsf.edu/guidelines/stis