性感染症(STD)が「女性の不妊症」と関係があることは、よく知られています。

具体的に言うと、クラミジアや淋菌が子宮頸管に感染し、卵子の通り道である卵管に広がって炎症や癒着を起こすと、不妊症や子宮外妊娠の原因となってしまいます。

実は、「男性の不妊症」にも性感染症が関係していることをご存じですか?

それぞれの性感染症が、男性不妊症に対してどのように影響するのか、各国の報告を参照しながら紐解いていきます。

クラミジアと男性不妊症

有名な説として、クラミジアが精子の通り道である精管を逆行性に感染して精巣上体炎を引き起こすことにより、精管が詰まってしまい、閉そく性無精子症になることが知られています。

調べてみると、意外なことにこの説を支持する報告は少なく、逆に閉そく性無精子症にクラミジア感染を認めなかったという研究がありました1)

クラミジアが精管を詰まらせてしまうという説は、実は間違いだったのかもしれません。

しかし、クラミジア感染を起こしていると、精液所見が悪くなるというデータもあります。クラミジア感染を起こした男性454人と、感染していない707人を比較すると、感染していたほうが精子濃度、精子運動率、精子正常形態率が低いということがわかりました2)。(図1)

図1 クラミジアと精液検査の関係クラミジア感染と精液検査の関係(論文1より引用)
出典:Chlamydia trachomatis infection is related to poor semen quality in young prostatitis patients

クラミジア陽性のほうが精子濃度・運動率・正常形態率が有意に低い

 

また、別の大規模な研究について説明します。

17,764人の空軍の軍人男性のなかで、クラミジアに感染した人の精巣炎・精巣上体炎、前立腺炎、不妊症、尿道狭窄の累積発生率はそれぞれ4.28%1.41%1.27%0.13%という結果が出てきました。クラミジアが感染することにより、不妊症のリスクは高まる可能性はあるが、影響はわずかであるという結論となっていました3)

海外には、軍人を大規模に調べるというデータベースがあるため、こんな調査もあるのです。(図2)

 

図2 クラミジア感染と各疾患の累積発生率の関係

図2クラミジア感染と各疾患の累積発生率の関係
出典:Reproductive tract complications associated with Chlamydia trachomatis infection in US Air Force males within 4 years of testing

クラミジア感染で不妊症の罹患率が高まる

 

クラミジアと男性不妊症の関連については様々なデータがあり、現時点では結論は出ていません。

しかし、最新の研究では非常に興味深い報告があります。無精子症患者の精巣生検組織を調査したところ、45.3%という高い割合でクラミジア特有ののタンパク質とDNAが検出されたことが分かったのです4)

先ほどの、「精管を詰まらせることによって無精子症になる」わけではなく、「直接精巣に感染を起こすことにより、精子の形成を阻害する可能性がある」ことが判明しました。これらの結果を考慮しても、クラミジア感染は男性の精子にとって悪影響を及ぼすものであろうということが分かります。

マイコプラズマ・ウレアプラズマと男性不妊症

性感染症のメインとなる原因菌は淋菌とクラミジアですが、マイコプラズマやウレアプラズマも、病原性は低いとはいえ忘れてはいけない細菌です。

マイコプラズマ/ウレアプラズマには、とてもたくさんの種類がありますが、一般的に、尿道炎症状を起こしうるとされるのは、「マイコプラズマ・ジェニタリウム」と「ウレアプラズマ・ウレアリチカム」であり、「マイコプラズマ・ホミニス」と「ウレアプラズマ・パルバム」は男性の尿道炎では症状を起こすことが少ないとされています。

マイコプラズマ/ウレアプラズマと精子の関係性については、中国から数多くのレポートが出ています。それらをまとめたメタ解析の結果では、「マイコプラズマ・ホミニス」と「ウレアプラズマ・ウレアリチカム」と男性不妊症は関連がありますが、「マイコプラズマ・ジェニタリウム」と「ウレアプラズマ・パルバム」は関係がないという結論となっていました5)

尿道炎の原因として起こりえる、「マイコプラズマ・ジェニタリウム」が不妊症とは関係がないというのが意外でしたが、女性の不妊症は起こしうることがわかっています。そのため、症状がなくとも、挙児希望がある年代では治療の適応があると考えます。

ヒトパピローマウイルス(HPV)と男性不妊症

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、女性の子宮頸がんの原因となるウイルスですが、女性へは男性の陰茎から感染します。実は、HPVも男性不妊症と関連があることが分かっています。

HPVは精液中にも感染することが分かっており、HPV陽性の精液では、精子の運動率が低下することが知られています。これらのデータは日本国内の研究でも確認されています6)

そのほかの性感染症と男性不妊症の関係

その他にも、トリコモナスや肝炎ウイルス、HIVなども精子に影響を及ぼす可能性があることが研究されています。いくつかの研究では、精液所見を悪化させる可能性があると考えられていますが、結論は出ていないのが現状です7)

子供を作ろうと考えたら、性感染症検査を受けてみましょう

まだまだ研究段階ですが、性感染症は男性不妊症と関係がある可能性があると考えられています。

また、男性本人の不妊症の心配だけでなく、性感染症ですので当然パートナーの女性に感染させてしまう可能性があります。

たとえば、クラミジアは男性に感染しても半分の人には症状が出ません。症状が出ないまま、女性パートナーに感染させてしまい、それが原因で不妊症となってしまう可能性があるのです。また、本人も感染に気が付かないまま、精子を作る能力が衰えてしまう可能性があるのです。

ブライダルチェックとして、結婚を機会に、幅広い性感染症のスクリーニング検査を夫婦ともども受けていただくことは、重要であると考えられます。その際には、淋菌やクラミジアだけでなく、マイコプラズマやウレアプラズマも一度は調べてみることをお勧めいたします。

 

参考文献

1) Sripada S, Amezaga MR, Hamilton M, McKenzie H, Templeton A, Bhattacharya S. Absence of chlamydial deoxyribonucleic acid from testicular and epididymal samples from men with obstructive azoospermia. Fertil Steril 2010;93:833–6.

2) Mazzoli S, Cai T, Addonisio P, Bechi A, Mondaini N, Bartoletti R. Chlamydia trachomatis infection is related to poor semen quality in young prostatitis patients. Eur Urol 2010;57:708–14.

3) Trei JS, Canas LC, Gould PL. Reproductive tract complications associated with Chlamydia trachomatis infection in US Air Force males within 4 years of testing. Sex Transm Dis 2008;35:827–33.

4) Bryan ER, et al. Detection of chlamydia infection within human testicular biopsies. Hum Reprod. 2019 Oct 2;34(10):1891-1898. doi: 10.1093/humrep/dez169.

5) Huang C, et al. Mycoplasma and ureaplasma infection and male infertility: a systematic review and meta-analysis. Andrology. 2015 Sep;3(5):809-16.

6) Cao X. et al. Impact of human papillomavirus infection in semen on sperm progressive motility in infertile men: a systematic review and meta-analysis. Reprod Biol Endocrinol. 2020 May 7;18(1):38.

7) Fode M, et al. Sexually Transmitted Disease and Male Infertility: A Systematic Review. Eur Urol Focus. 2016 Oct;2(4):383-393.