外来で患者さんから、射精後にとても体調が悪くなるという相談を受けることがあります。

これは、「オーガズム後症候群(Postorgasmic illness syndromePOIS)」と呼ばれています。2002年に初めて世界で報告された疾患であり、比較的新しい病気です。
以前、日本国内でも日本性機能学会にて発表されたことがありました。

今まで、オーガズム後症候群の報告はとても少なく、ある意味謎の病気でした。しかし、2020年11月にオーガズム後症候群の300人を超える大規模調査に関する論文が出たので解説します。

そもそも、オーガズム後症候群(POIS)って何?

簡単にいうと、「射精した後に、しばらくの間様々な症状が起こって、体調がとても悪くなってしまうこと」のことです。

症状としては、以下のものが挙げられます。

  • 疲労感や脱力感
  • 頭痛
  • 発熱や発汗
  • 記憶力や集中力の大幅な低下
  • イライラやうつ的な気分の症状
  • 鼻づまり
  • 目のかゆみ
  • のどの痛み

オーガズム後症候群

ある報告では「インフルエンザにかかったような症状」とさえ書かれています。

射精するだけで、こんなことが起きてしまうと困ってしまいますね。

オーガズム後症候群(POIS)の定義

性科学者であり世界有数の早漏研究者の一人であったウォールディンガー先生 は、オーガズム後症候群(POIS)の定義として以下ものをあげています。

  • 全身、インフルエンザ様、頭、目、鼻、喉、筋肉における症状(不調)
  • 射精後数時間以内に発生する
  • 症状は射精をした時90%以上に起こる
  • 症状は2-7日持続する
  • 症状は自然軽快する

POISの原因は射精する際の自分の精液によるアレルギーという説が最も有力です。それ以外にも、内分泌や自律神経の不調による原因という説もあります。

POIS患者300人調査のハイライト

今回発表された新しい論文では、上記の定義を用いて6つの大陸、61の国から302人の患者のデータを解析して報告されました。ここで報告された患者のほとんどは白人です。

30項目を評価し、POISの症状、病気の経過、およびPOISが患者の生活にどのように影響したかについて調査しました。

この論文の要旨を以下に箇条書きにします。

論文の要旨
  • POIS男性患者の約85%がオーガスムから数時間以内にPOIS症状が起きました。約40%の男性は、症状は30分以内に始まりました。
  • POIS患者の約4分の3は、オーガスム後に約90%から100%の確率で症状が発生しました。
  • POIS患者の約61%が、症状が2〜7日継続しました。
  • 半数以上のPOIS患者は症状が自然に消えたそうです。そのうち、22%の患者の症状は徐々に解消してきたとのことでした。
  • 最も一般的な症状は、「集中力低下」(84%)、「極度の倦怠感」(83%)、「過敏性」(74%)、および「筋力低下」(70%)でした。 65%が、「重度の痛み」があると述べました。
  • 「頭」と「喉」の症状が出た男性は、より重篤な症状を示す傾向がありました。
  • 早漏、勃起不全(ED)、アレルギー、うつ病、全般性不安障害が併存症として報告されました。
  • POIS男性の70%以上が、POIS症状を管理するために、自慰行為を避けたり、毎日のスケジュールを変更したりしたと述べています。また、約62%の男性がセックスを避けるようになりました。

POIS男性の半数強が医師の診察を受けていました。
POIS患者は、抗ヒスタミン薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、ベンゾジアゼピン、ナイアシン(ビタミンB3)、非ステロイド性抗炎症薬など、さまざまな治療法をトライしたことがわかりました。
一部の男性は、ビタミン、ハーブ製品、サプリメントを使用しました。

抗ヒスタミン薬を服用している男性の約半数は、症状が改善しました。ナイアシンと非ステロイド性抗炎症薬は、約4分の3の患者に効果がありました。

平均年齢は32.6、POISの症状が初めて出たのは平均19.1でした。

発症年齢には2つのピークがあることがわかりました。つまり、半数以上が10歳から17の間にPOIS症状が出てきましたが、残りのグループでは、18歳から59のときに症状が始まりました。おそらく、これは原発性(生まれつきのタイプ)および続発性(後天的に後から出てきたタイプ)の2種類があることがわかります。

これらのデータはあくまでも予備的なデータであるとも解説されています。
ただし、同様の症状で悩んでいる方は、一度専門医を受診した上で、治療をトライしてみる価値はあるのではないでしょうか。

 

参考文献

Analysis of the Symptomatology, Disease Course, and Treatment of Postorgasmic Illness Syndrome in a Large Sample. Natale C, Gabrielson A, Tue Nguyen HM, Dick B, Hellstrom WJG.J Sex Med. 2020 Nov;17(11):2229-2235. doi: 10.1016/j.jsxm.2020.08.020. Epub 2020 Sep 30.PMID: 33008782