精液の検査は、男性の妊孕性(にんようせい:こどもを作る能力)を予測する最も重要なものです。
精液中の精子の濃度、運動率、正常精子形態率を測定することで、その人が不妊症かどうか、ある程度は予測することができるからです。
現在まで、精液検査は2010年にWHOが発表していた「ヒト精液検査と手技 WHOラボマニュアル第5版(WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen 5th edition)」を参考として世界中で評価されていました。
このたび、最新のWHOラボマニュアル第6版が2021年7月27日の夜に発表されました。精液検査の基準値など、変更点について説明いたします。
ヒト精液検査と手技 WHOラボマニュアル第6版
精液検査の基準値が変更されました
発表された新しい基準値のデータを以下に記します。
出典:WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen
この表は、避妊用具を使用しないで12か月以内に妊娠したパートナーの男性精液パラメーターの分布範囲を示しており、世界各国の精液検査データを参考にして作成されています。2010年のマニュアル第5版には、オーストラリア、ノルウェー、アメリカ、デンマーク、フィンランド、フランス、イギリスといった欧米のデータしか含まれていませんでしたが、今回新しく発表された第6版には中国、エジプト、ギリシャ、イラン、イタリアといったアジアやアフリカの国のデータも含まれるようになりました。
今回の修正点を過去のマニュアルと比較すると、以下のようになります。
精液量、精子濃度、運動率などの基準値が変化していました。
精液検査の基準値を参考にしてデータを評価する際に、いくつか注意点があります。
- これらのデータは、避妊中止後12か月以内にパートナーが自然妊娠した男性の精液検査データを参考にして作られました。つまり、妊娠した男性は精液検査でどれくらいの値だったか、ということを知るためのデータなのです。基準値として、妊娠した男性のデータの下位5%以上のデータであれば、自然妊娠する可能性があるだろうと考えられます。
- 基準値は平均値というわけではなく、「自然妊娠できる必要最低限のデータ」と考えてください。
- このデータを上回っているから、自然妊娠を保証するというわけではありません。逆に、下回っていても自然妊娠できる可能性はあります。
- 妊娠の可能性については、女性パートナーの状況に大きく左右されます。また、精液の検査は変動が大きいため、上記データはカップルの生殖能を間違いなく判断するものではありません。あくまでも、目安として考えてください。
わかりやすくいうと、新しい精液検査の基準値として、精液量が1.4ml、精子濃度が1,600万個/ml、精子運動率が42%以上あればパートナーが自然妊娠できる可能性がある、と考えてください(解釈の仕方がいろいろありますが、一つの考え方として記載しています)。逆に言うと、このデータ以下であれば、パートナー女性が自然妊娠をすることが難しく、男性不妊症の可能性があると考えられます。
高度精液検査として、精子DNA断片化検査が新たに加わりました
以前の精液検査マニュアルに見られなかった、新しい評価項目として、精子DNA断片化検査や精液中酸化ストレス測定などの項目が加わりました。
クリニックレベルで評価できる高度な精液検査として、精子のDNA損傷を検査するSperm DNA fragmentation(精子DNA断片化)を調べる検査があります。加齢や生活習慣の悪化が原因となり、精子が酸化ストレスなどのダメージを受けることで、精子の頭部にあるDNAが損傷します。精子のDNA損傷がひどくなると、受精率や妊娠率が低下したり、流産率が上昇する可能性があることがわかっています。
また、精子のDNA損傷を引き起こす原因を調べる検査として、精液中の酸化ストレスを測定するという方法もあります。当クリニックではORP(Oxidation-reduction potential:酸化還元電位)を調べることができます。精液中の酸化ストレスを測定し、精子DNA損傷レベルを確認いたします。
精液中の酸化ストレスが高い場合は、老化のストレスを下げるように生活習慣を改善したり、コエンザイムQ10やオメガ3脂肪酸といった抗酸化のサプリメントを摂取することをお勧めしています。
見た目の運動率や濃度だけではわからない不妊症の原因が判明する可能性もあるので、なかなか自然妊娠しないカップルは、一度検査を受けていただくことをお勧めいたします。
精液検査を受けてみましょう
精液検査は、男性不妊の原因を調べることができる、最も簡単で確実な方法です。データが蓄積されていくに従い、基準値が徐々に変化してきて、技術の発展もあり様々な新しい検査が有用であることがわかってきました。
今後、子作りを考えている人、結婚を考えている人、興味がある人は、精液の検査を受けてみませんか?