精索静脈瘤とはせいさくじょうみゃくりゅう
私が解説します
小堀 善友
男性の性の健康に関する診療を担当。
■泌尿器科医 ■生殖医療専門医 ■性機能学会専門医 ■性科学会セックスセラピスト
男性不妊症の原因が判明するものとして、最も多いものは精索静脈瘤です。 精子の機能が低下する造精機能障害の35%以上は精索静脈瘤が原因となっています。 適切な検査と治療を受けることで、精子を作る力を改善させ、パートナーの妊娠を助けることができることがわかっています。
精索静脈瘤とは
陰嚢を触ると、精巣より上側方向につながるコリコリした管があることがわかります。
これが「精索」です。
精索は、精子の通り道である精管・血管(動脈・静脈)・神経・リンパ管が束になって構成されています。
精巣から心臓へ血液を戻す血管のことを精索静脈と呼びます。 精巣は心臓よりも低い位置にあるため 、精索静脈には通常は逆流を防止する弁があって、逆流が起きないようになっています。
この弁の機構が不良となって逆流が生じ、精索の静脈(蔓状静脈叢:つるじょうじょうみゃくそう)が蛇行・拡張した状態が精索静脈瘤です。
一般男性の約10〜20%に認められ,男性不妊症の原因の約30%を占めると言われています。
精索静脈瘤ができると…
- 精巣内温度が上昇(2℃〜3℃)
- 酸化物質(活性酸素)、腎臓・副腎の代謝産物の増加
- 精巣内の低酸素状態
- 精子を作る機能(造精機能)が低下
- 精子の質が悪くなる(濃度・運動率の低下、DNA断片化など)
不妊の原因に
精索静脈瘤は、思春期以降に発生することが多く、約80%が左側に認められ、両側に認められることもあります(左側80%、両側15%、右側5%と報告されています)。 ほとんどの場合は無症状ですが,稀に痛みの原因となる場合もあります。
なぜ左側に多いかというと、ヒトの体の解剖によるものです。
左の精索静脈は左腎静脈という血管に合流するようになっており、非常に遠回りな走行をしているので、左側のみに静脈瘤ができやすいのです。
ちなみに、右側の精索血管は、下大静脈に直接合流するため、左側に比べると近道な走行をするので静脈瘤はできづらいです。
精索静脈瘤が及ぼす影響
静脈血の逆流による精巣内温度の上昇や、低酸素、代謝産物除去の遅延による精巣内酸化物質の増加が起こり、これらが造精機能、精子機能に悪影響を及ぼします。 酸化物質の増加が起こると、精巣に加齢の影響と同様の負荷(酸化ストレス)がかかるために、造精機能低下が起こるのです。
酸化物質の増加により、精子頭部に存在するDNAが損傷を受けた精子が多くなると言われており、不妊症や流産の原因にもなります。 DNAの損傷は一般的な精液検査では判定できず、DFI(DNA Fragmentation Index)という検査を行うことにより測定します。
精索静脈瘤の検査
精索静脈瘤の検査は、触診とエコー検査で行います。
まず、 臥位(がい:寝転んだ状態),立位(りつい:たった状態)にて精巣、精索の診察を行っていきます。
立位や腹圧により血管拡張を生じる軽度のもの(グレードⅠ)から、通常時に陰嚢皮膚を通して目視で確認できる程血管拡張を示す状態(グレードⅢ)まで分類されます。
また、超音波検査で拡張した静脈、逆流血を確認することも重要です。 この写真では、ドップラー超音波検査で血管拡張と血液の逆流を観察しています。 腹圧をかけると、赤い血流と青い血流が乱流を起こしていることがわかり、血液が逆流していると判定されます。
- 精索静脈瘤のグレード分類
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- グレードⅠ:立位でバルサルバ法(腹圧負荷)によってはじめて触知するか,超音波ドップラー法で確認できるもの
- グレードⅡ:立位で腹圧負荷なしに触知可能だが,視診ではわからない
- グレードⅢ:臥位で腹圧負荷なしに視診で診断可能
精索静脈瘤の治療
手術
根治療法は手術です。精巣静脈を結紮(けっさつ:縛って結ぶこと)・切断することにより逆流を防止します。約50%〜70%の方で術後3ヶ月から半年で精液所見の改善が期待できます。 ただし、精液所見が改善しない方についても、術後DNA損傷を受けた精子の数が少なくなることが近年の研究で明らかにされています。
手術の方法は、高位結紮術、腹腔鏡手術などがありますが、現在の報告では顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術が最も合併症が少なく、効果が高いことがわかっています。 顕微鏡を用いることにより、静脈は結紮切断しますが、動脈とリンパ管を温存することが可能であるので、術後再発が少なく、精巣への血流が保たれ、陰嚢水腫(いんのうすいしゅ:精巣を包む膜の中に液体が溜まった状態)などの合併症が少ないのです。
施設によって違いはありますが、一般的にはグレードⅡ以上、血管の太さが3mm以上、血液の逆流がある場合には手術が推奨されます(日本生殖医学会アンケート結果より)。
抗酸化療法
精巣内の酸化ストレスを中和するコエンザイムQ10やオメガ3脂肪酸、ビタミンC・E、亜鉛などの抗酸化作用をもつ薬剤/サプリメントを内服することにより、精液所見の改善を期待します。
精巣で精子が形成され精液中に出てくるまで約3ヶ月程度要しますので3−4ヶ月内服して効果判定を行います。
抗酸化剤を内服した場合、約50%の方で精液所見が改善します。1)
精索静脈瘤に対する手術は、必ずしもパートナーの妊娠を保証するものではありません。また、グレードが低い静脈瘤に対して手術を行ったとしても、効果が少ないことがわかっています。
逆に、グレードⅡ以上の静脈瘤に対して手術を行えば、精子を作る力が改善する可能性があるのです。
精索静脈瘤は、ある程度は自分で診断することができます。お風呂上がりに、自分で陰嚢を触ってみてください。
左側の精巣の周りに血管がギョロギョロ透けて見える方はグレードⅢの精索静脈瘤の可能性があるので要注意です。男性不妊症専門医の診察をお勧めいたします。
1) Oral antioxidant treatment partly improves integrity of human sperm DNA in infertile grade I varicocele patients. Hum Fertil (Camb). 2015 Sep;18(3):225-9.