下垂体性性腺機能低下症とはかすいたいせいせいせんきのうていかしょう
私が解説します
小堀 善友
男性の性の健康に関する診療を担当。
■泌尿器科医 ■生殖医療専門医 ■性機能学会専門医 ■性科学会セックスセラピスト
下垂体性性腺機能低下症とは?
脳の下部にある「下垂体」の不具合により、性ホルモンがうまく分泌されないために生じる病気で、男性不妊症 の原因にもなります(割合としては多くありませんが)。
精巣の中で精子が作られたり、男性ホルモンが分泌されますが、その精巣の働きをコントロールしているのは脳の下垂体のホルモンです。
下垂体前葉からは、以下の2つのホルモンが分泌されて、精巣に指令を出しています。
- LH(黄体形成ホルモン):
- 精巣から男性ホルモン(テストステロン)を分泌する命令
- FSH(卵胞刺激ホルモン):
- 精巣から精子を作り出す命令
これらのホルモンが不足すると、精巣の機能が低下するために、男性ホルモンが低下したり、精子が作られなくなることがあります。
この状態を下垂体性性腺機能低下症(低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症:Male hypogonadotrophic hypogonadism)と呼びます。
性腺機能低下症は、二次性徴の遅延として発見されることが多い病気です。 女性は「生理」というイベントがあるために、二次性徴の遅延が見つかることが多いのですが、男性はそのようなイベントがないために発見が遅れてしまうことがあります。 男性に起こる性腺機能低下症の身体的特徴として、以下のようなものが挙げられます。
- ペニスが小さい
- 陰毛や髭などの体毛が少ない
- 勃起や射精ができない
- 精巣が小さい
- 声変わりしていない
下垂体性性腺機能低下症の種類
下垂体性性腺機能低下症は、薬で治療が可能な数少ない男性不妊症の病気です。男性不妊症の原因の数%と言われています。
この病気は、1)先天性、2)続発性、3)成人発症の3つの種類に分けられます。
- 1)先天性:
- 生まれつき下垂体機能が低下している。二次性徴が起こらないことにより見つかる。
- 2)続発性:
- 交通事故や脳腫瘍など、下垂体に何らかのダメージが起こったために下垂体機能が低下する。
- 3)成人発症:
- 原因不明で、突然発症する性腺機能低下症。以前は勃起や射精もできていたにもかかわらず、性腺機能低下のために勃起や射精ができなくなって見つかることが多い。以前は精子がちゃんと出ていて、子供がいるのに発症することも。
下垂体性性腺機能低下症の検査
下垂体性性腺機能低下症を診断するために、以下の検査が行われます。
脳MRI
脳のMRIを撮影し、解剖学的に問題がないかを確認します。下垂体に腫瘍や嚢胞があると、下垂体機能低下が起こりえます。その場合は、手術にて治療を行います。
下垂体ホルモン検査
精巣を刺激して、精子や男性ホルモンを作りだすホルモンであるLHやFSHだけでなく、 他の下垂体ホルモン(プロラクチン:PRL、成長ホルモン:GH、甲状腺刺激ホルモン:TSH、副腎皮質刺激ホルモン:ACTH)を測定します。 他のホルモンが低下している場合は、それらを補充するための治療も必要となります。
ホルモン負荷試験
性腺刺激ホルモン放出ホルモン:LH-RHを注射することにより、LHの分泌が上昇するかどうかを確認します。また、LHの代理となるホルモンであるhCGを注射することにより、精巣が刺激されて男性ホルモン:テストステロンが上昇するかどうかを確認します。検査を受けるために、入院が必要となる場合もあります。
上記の試験は、病気を診断するためだけでなく、公費負担を申請するために必ず検査を受けなくてはいけません。
下垂体性性腺機能低下症の治療
足りない下垂体ホルモンを補ってあげることで、治療していくことが可能です。
LH(黄体形成ホルモン)の代わりにhCGというホルモンを、FSH(卵胞刺激ホルモン)の代わりに人工的に作られたrhFSHというホルモンを週に2〜3回、自分で注射して治療します。
- LH(黄体形成ホルモン) →hCG
- FSH(卵胞刺激ホルモン) →rhFSH
治療効果は80%以上で、ほとんどの人の精巣機能が回復し、男性ホルモンが分泌されて精子を作り出すことができるようになります。下垂体機能低下症は国から難病に指定されており、保健所に申請することで、公費による補助もでます。