男性不妊・メンズヘルス

男性不妊症とは

私が解説します

小堀 善友

小堀 善友
男性の性の健康に関する診療を担当。
■泌尿器科医 ■生殖医療専門医 ■性機能学会専門医 ■性科学会セックスセラピスト

男性不妊症とは

不妊症とは、「子供を作り始めて、1年間経っても自然妊娠に至らない状態」をいいます。不妊症には様々な原因がありますが、男性側が原因となっているものを「男性不妊」と呼びます。
一般に不妊症と言うと女性に原因があると思われがちですが、実際のところ不妊症の48%は男性が関与していることが分かっています(WHO統計)。

不妊症の原因

一般的に、子供を作ろうとされる年代の方は、若くて病気がない健康な状態の方が多いのではないでしょうか?しかし、不妊症は何らかの障害が原因で子供ができづらくなっているという病気であると考えられます。そのため、子供を持つためには治療が必要となります。

歳を取ると、子供を作ることは難しくなります。男女ともに、35歳を超えると不妊症の割合が上昇します。
加齢は、不妊症の最も大きな原因の一つです。

不妊症は将来的に悪くなることはあっても、自然に改善していくことはありません。できるだけ早期に、適切な検査を受けて、原因を究明し、治療を受けないと、子供を作ることができないのです。

特に、35歳以上の人は半年間でも子供ができない場合は、治療が必要と考えられています。

男性不妊症の原因

男性不妊症の原因は、以下の3つに分類されます。

精子を作る機能が低下(造精機能障害)

精子を作る能力が低下(造精機能障害)

精子を作る力が低下してしまうことを「造精機能障害」といいます。男性不妊症の原因の中で最も多く、80%を占めています。
精巣の中で精子を作る力が低下して、射精した精液中の精子の数や運動が低下するために、パートナーに子供ができづらくなる状態です。
造精機能障害の半分以上は原因不明です(特発性造精機能障害 )。原因不明の場合は、加齢のストレスを低下させるような生活習慣の改善、コエンザイムQ10などの加齢のストレスを抑える抗酸化剤のサプリメント漢方薬などで対応します。
また、精索静脈瘤薬剤性下垂体性性腺機能低下症精巣形成不全症候群 などの原因がある場合もあり、原因の治療をすることによって造精機能が改善する可能性があります。

勃起や射精ができない(性機能障害)

勃起や射精ができない(性機能障害)

勃起や射精ができない「性機能障害」によって、満足に性行為ができず、不妊症となってしまうこともあります。 1997年の男性不妊症原因調査では3.3%ほどだったものが、2015年の調査では13.5%と上昇しており、近年増加傾向です。

勃起障害

勃起障害(ED)とは、セックスを行うのに十分な勃起を維持できないことをいいます。
勃起障害の場合は、バイアグラやシアリスといった薬剤で80%以上は治療可能です。
勃起はそもそもリラックスした状態(副交感神経優位)の時に起こりやすいものであり、過度なプレッシャーは要注意です。
例えば、女性の排卵日に合わせて性行為を行うタイミング法を行っていて「子どもをつくろう」という意識が強くなりすぎると、交感神経が優位となってしまい、勃起がしづらくなることもあります。

射精障害

勃起はできても、射精ができない場合もあります。 射精障害にも様々なタイプがありますが、中でも最近は「腟内射精障害」が増加しています。 腟内射精障害とは、マスターベーションでは射精できるのにも関わらず、性行為中に射精できない状態で、「重度の遅漏」とも言えます。

勃起障害と比較すると、射精障害は治療が困難であり、簡単に治らない場合も多いです。 そのときは、人工授精や体外受精といった生殖補助医療が必要となります。

精子の通り道が詰まっている(精路閉塞障害)

精子の通り道が詰まっている(精路閉塞障害)

精子の通り道である精管が詰まってしまったため、精巣内で精子はできているのですが、それが外に出てくることができなくなることがあります。これを「精路閉塞障害」といいます。 射精液の90%以上は前立腺液もしくは精嚢液であり、普通に射精ができるので、精液検査をしなければ自覚がないためにわかりません。 閉塞している場所がわかれば、手術(顕微鏡下精路再建術)によって精子が出るようになりますが、非常に難易度の高い専門的な手術です。 また、精巣内の精子を手術で採取することができれば、体外受精に用いることができます。

ここまで、男性不妊症の原因について簡単にご説明いたしました。それぞれの原因の内訳について、厚生労働省研究班が平成27年に7,000人の日本の男性不妊症の原因を調査した結果を以下にご紹介します。

男性不妊症 原因の内訳

男性不妊症の検査

男性不妊症の原因を調べるために、行われる検査は以下の通りです。

精液検査

男性不妊症で最も重要な検査です。精液量、精液中の精子の濃度、運動率、正常形態を調べます。 基準値よりも検査結果が低い場合は、自然妊娠が難しいことがわかっています。 最近は、スマートフォンでも簡易に自宅で検査ができるようになっています。

また、高度の精液検査として、より精密に精子の状態を調べるために、精子のDNA損傷(DFI)や、精液の老化ストレス(ORP)を測定することができる検査もあり、生殖補助医療を行う際に参考にすることができます。

項目WHO基準値
精液量1.6ml以上
精子濃度1600万/ml以上
精子運動率42%以上
精子正常形態率正常な精子が4%以上

ヒト精液検査と手技 WHOラボマニュアル第6版(2021年)より

精液検査の所見が基準値以下の場合、以下のような状態であると考えられます。

欠乏症

精子無力症

奇形精子症

無精子症

さらに、それぞれの原因を評価することにより、不妊治療を進めていきます。

超音波検査

精巣の大きさや、精巣の石灰化、精索静脈瘤を調べることができます。 精索静脈瘤の血管の太さを調べたり、血液の逆流(ドップラー超音波検査)を調べることにより、精索静脈瘤が手術の適応となるかどうかを判断します。 ごく稀に、精巣癌が見つかる場合もあるため、必須の検査です。

精巣の大きさ

精巣の大きさの左右差があったり、極端に精巣の大きさが小さい場合は、精子を作る機能が低下している可能性があります。

精巣の石灰化

精巣をエコーで見ると、白いゴマをふったように見える場合があります。この場合は、精巣癌や不妊症に関係している可能性があります。

精巣石灰化

精索静脈瘤

主に左側の精巣周囲の血管が拡張し、腹圧をかけた時に血液が逆流することを確認できれば、精索静脈瘤と診断されます。 精索静脈瘤は手術によって治療可能であり、術後に50~70%の人の造精機能が改善します。

血液検査(ホルモン検査)

精子は精巣で作られますが、その命令を司るのは脳の下垂体から分泌されるホルモンです。 ホルモンのバランスが崩れていると、精子が作られづらくなってしまうことがあります。 その場合、薬剤の投与で造精機能が改善する場合があります。

また、下垂体性性腺機能低下症は難病指定されており、公費による補助が出てくれるだけでなく、注射による治療でほとんどの場合は精子が作られるようになります。

精巣からは、男性ホルモンであるテストステロンが分泌されます。男性ホルモンは、精子を作るのに重要なホルモンであり、低下している場合は精巣を刺激する薬剤を使用します。

無精子症や高度乏精子症の場合は、染色体検査や遺伝子検査が必要となりますが、それも血液で調べることができます。

外来では、主に以下のホルモンを測定します。

LH(黄体形成ホルモン):
精巣から男性ホルモン(テストステロン)を分泌する命令
FSH(卵胞刺激ホルモン):
精巣から精子を作り出す命令
T(テストステロン):
男性ホルモン、精子を作るのに必要
PRL(プロラクチン):
乳汁分泌ホルモン、これが上昇するとEDや不妊症の原因となる

性感染症検査

性感染症は男女双方の不妊症の原因となります。不妊治療を始める前には必ず検査する必要があります。 クラミジア、淋菌、B型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIV等を調べて、感染が判明した場合は、不妊治療の前に抗生物質による治療が必要となります。
性感染症ではありませんが、風疹のワクチンを打っていない人は、妊娠した後に風疹にかかってしまった場合は胎児に問題が起きる可能性があるために、風疹の抗体を調べる必要があります。