人と人、
家族をつなぐ
精子バンク
男性不妊の専門家と無精子症当事者
がつくる、やさしい仕組み。
精子バンクとは
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精子バンクとは、提供された精子を保管し、必要とする人へ供給する施設です。提供精子は検査・凍結・保管され、生殖補助医療を実施する医療機関へ供給されます。精子ドナー(提供者)は、感染症の検査や精液検査、問診、ご本人・ご家族の病歴の審査、カウンセリングを経て、ドナー登録を行います。
日本ではこれまで、提供精子を使った人工授精(AID)を実施する医療機関が主にドナーを募ってきました。当院の精子バンクは提供精子を集めることに特化し、全国の医療機関(産婦人科)への供給とドナー・ご夫婦・お子さまへの情報提供・支援を行います。
ドナーの集まりにくい地域の医療機関や、精子提供やお子さまへの告知に関する知見をお持ちにならない医療機関でも、当院及び外部の専門家との連携の下で提供精子を用いた生殖補助医療を適切に実施できるようにいたします。
日本の精子提供における課題
さまざまな当事者の悲しみ
日本では主に無精子症のご夫婦を対象に、提供精子を用いた人工授精(AID)が70年以上前から行われてきました。この医療により生まれたお子さまの数は累計で2万人とも言われ、たくさんのご夫婦が救われてきました。この医療に心から感謝する人々や、精子提供で生まれたことを肯定的に受け止めるお子さまもいる一方で、大きな孤独や苦悩を抱える人々の声も度々聞かれるようになりました。
無精子症と診断され、誰にも相談できずに途方に暮れるご夫婦の絶望。AIDに対する「親のエゴ」「夫婦で妊娠できないなら子どもは諦めろ」「養子にすべき」などといった心無い言葉。ドナー不足で治療がなかなか受けられない厳しい治療環境。精子提供で生まれたことを知らずに育ち、大人になってから偶発的に知ったお子さまの受けた衝撃。自分のルーツの半分を辿ることができない苦しみや喪失感・・・
この治療に関わるさまざまな立場の人が、さまざまなところで時に悲しみを抱えながら、日本のAIDはひっそりと続けられてきました。
出自を知りたい子どもたちの想い
精子提供は長い間匿名で行われ、子どもには精子提供によって生まれた事実を伝えないことがかつては一般的でした。しかし、精子提供で生まれたことを偶発的に知り、大きな衝撃を受けた人々の声が聞かれるようになりました。養子縁組における真実告知を参考に、昨今では子どもへの告知を早期から始める親が少しずつ増えてきています。
精子提供で生まれた方の中には、ドナーに全く関心を持たない人もいる一方で、ドナーの身元が分からないことによりパートナーとの間で近親婚の不安を感じたり、自己の半分が欠落しているような気持ちを抱えて苦しむ人もいます。自己のアイデンティティを確立するために、ドナーの情報を必要とする人がいます。
彼らの声を重く受け止め、近年ではさまざまな国が精子提供の非匿名化(ドナーの身元情報の開示)を法律上義務付け、子どもの出自を知る権利を保障するようになりました。
子どもの出自を知る権利の重要性

「出自を知る権利」とは?
出自を知る権利とは、自己の遺伝的ルーツを知る権利のことです。生殖補助医療においては、精子や卵子の提供によって生まれた子どもが「自身がどのように生まれたのか」、そして「ドナーが誰なのか、どんな人なのか」を知る権利を意味します。
この権利の保障を義務付けるスウェーデン、ノルウェー、イギリス、ドイツ、フランスといった国々では、一定の年齢に達した子どもが国の公的機関を通じてドナーの氏名、住所(または出生地)、生年月日を知ることができます。こうした情報に加えて、ドナーの医療情報や職業、提供動機などの開示も行われています。
残念ながら、日本の精子提供は今も匿名で行われています。
生殖補助医療における「子どもの出自を知る権利」を保障することは、国や医療者の責任であると、私たちは考えています。当院では、出自を知る権利の重要性を理解し、お子さまが希望された場合に身元情報を開示してくださるドナーを募集いたします。安心してご提供いただけるよう、私たちがお子さまとドナーのコミュニケーションを仲介いたします。すべての当事者さまのゆたかな人生のために、皆さまと共にこの権利を大切に守ってまいります。
※お子さまにお伝えできるドナー情報の範囲は、新たな法整備が行われた場合に変更される可能性がございます。その場合には、本サイトでお知らせいたします。
当精子バンクの基本理念
すべての当事者さまをつなぐ、やさしい仕組みを
身元を開示してくださるドナーを募集します
当院は、精子提供に関わるすべての当事者さま(親となるご夫婦、ドナー、お子さま)にゆたかな人生を歩んでいただけるよう、一人ひとりに寄り添い、すべての当事者さまをつなぐやさしい仕組みをつくることを目指します。
当院では、精子提供で生まれるお子さまの出自を知る権利を大切に考え、身元を特定できる情報(氏名・居住都道府県・生年月日・連絡先)をお子さまのご希望に応じて開示して下さるドナーを募集します。そして、ドナーからいただいたやさしさを責任を持ってご夫婦やお子さまに届けます。
将来、お子さまのご希望によりドナーとおつなぎする瞬間をすべての当事者さまが安心して迎えられるよう、透明性の高い医療・サービスと長期にわたる継続的支援を提供します。
精子バンクを今立ち上げる理由
現在、超党派の「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」が第三者の精子・卵子を使った生殖補助医療に関わる新法「特定生殖補助医療に関する法律案(仮称)」の立案を目指し、議論を重ねています。その論点の一つに、提供精子・卵子によって生まれたお子さまの出自を知る権利の保障がありますが、現在公表されている法案たたき台では、すべてのお子さまに対して開示されるドナー情報は身長・血液型・年齢の3点に限定されています。ドナーの氏名を開示できるかどうかは、成年に達したお子さまから情報開示の求めがあった時点でのドナーの意向に委ねられています。これでは、お子さまの出自を知る権利が保障されるとは言えず、お子さまによってはドナーについて知りたい情報を知れないままである可能性が残ります。
ドナーの身元情報の開示を法律で義務付けられない理由の一つとして、ドナー不足への懸念が挙げられています。しかし、身元情報の開示を義務付けた国の中には、ドナーの集め方を変え、国や医療機関からの情報発信を活発化することにより社会の理解を深め、結果的にドナーの数が増えたところもあります。日本でも非匿名での精子提供の必要性が知られるようになれば、その意義に賛同してくださるドナーを集められるのではないでしょうか。
法案が成立した場合、その内容に応じて当院の精子バンクの仕組みは変更いたします。当院が大切にする、お子さまの出自を知る権利が保障できなくなる可能性もございます。この権利を保障することの重要性を当事者の皆さまはもちろん、社会の皆さまと共に考え、これから生まれる子どもたちにとって少しでも望ましい法案になるよう反映していただきたいという願いを込めて、私たちは今、精子バンクを立ち上げました。
すべての当事者をつなぐやさしい仕組みを
家族をつくることは、人生に大きな幸せをもたらし得る営みの一つです。どんな家庭を築いていきたいかご夫婦で考え、実現に向けて共に歩む未来には、やさしい支援が必要ではないでしょうか。そして、自分以外の誰かが家族をつくることを助けるという営みもまた、ドナーの人生に大きな幸せと意義をもたらすことです。ご夫婦、ドナー、それぞれのご家族、そして医療者。たくさんの大人が関わり、強く望まれて生まれてきたお子さまの人生が幸せに満ちあふれたものであってほしい、とこの医療に関わる誰もが願っています。

私たちは、精子提供に関わるすべての当事者さま(親となるご夫婦、ドナー、お子さま)がゆたかな人生を歩んでいけるよう、一人ひとりに寄り添い、すべての当事者さまをつなぐやさしい仕組みをつくることを目指します。
ドナーになってくださる方には、その貴重な善意と責任がもたらす大きな幸せと意義を知っていただきたい。
親となるご夫婦には、治療前から育児中まで、お二人の未来とお子さまの幸せを一緒に考える医療者がいるということを知っていただきたい。
生まれたお子さまには、あなたの人生を責任を持って見守るたくさんの大人がいると知っていただきたい。
すべての当事者さまの孤独や苦悩を和らげられるよう、適切な情報・治療・支援を届けてまいります。
医師・スタッフ紹介
生殖医療専門医 / 東京院院長 小堀 善友
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「男性不妊症の専門家」だからこそできる精子提供サービスがある
私は数多くの男性不妊症患者の診療を行ってきました。あまり知られてはいませんが、100人に1人の男性は無精子症です。無精子症の男性に対して手術をしても、過半数の人は精子を採取することができません。そのような人たちは、新しい家族を持つことをあきらめなくてはならないのでしょうか?その問題を解決するために精子提供という方法があるのですが、日本では必要な人へ精子を提供するシステムが今までありませんでした。そこで、私たちは「男性不妊症の専門家」だからこそできる精子提供サービスを始めていきます。
無精子症のカップルが新しい家族を持つことができるように、助けてあげたい。生まれてくる子どものことを一番に考えてあげたい。そして、精子を提供してくれる人にも感謝をしたい。
私たちは、みんなにやさしい精子提供サービスを届けていきます。
略歴
前獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授(生殖医療専門医)。男性不妊症と性感染症が専門であり、前職にて多くの無精子症患者の手術に立ち会った。米国留学中には精子凍結の研究に携わり、スマートフォン精液検査を開発した。
無精子症当事者 / 不妊カウンセラー 伊藤 ひろみ
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「レシピエント」と「ドナー」を経験したからこそ実現したい未来がある
私は、夫の無精子症によりイギリスで精子提供を受け、二人の子どもに恵まれました。海外での治療を選択したのは、非匿名ドナーからの提供により子どもの出自を知る権利を保障することが私たち夫婦にとって重要だったからです。子どもたちへは、精子提供で生まれたことを2歳から伝え始め、今やオープンな話題として度々話すようになりました。
ドナーさんからいただいた奇跡のような幸せを社会に還元するつもりで、私は出産後に卵子ドナーとして無償での卵子提供を行いました。自分がドナーになることで新たに感じた幸せもありました。
子どもたちはもちろん、当事者みんなが幸せになれるようなやさしい仕組みをつくること。そして、この医療に対する社会のまなざしを変えていくこと。これが、精子提供のおかげで幸せな人生を歩む自分の責務であり、私は生涯をかけてその実現に取り組んでいく所存です。
略歴
夫の無精子症により英国で精子提供を受け、二児を出産。2019年にデンマークの精子バンク、クリオス・インターナショナルの日本事業担当ディレクターとして日本事業を立ち上げ。ロビー活動・PR活動に従事し、500名超の女性が国内で精子提供を受けることを支援した。2024年2月、当院へ入職。NPO法人日本不妊カウンセリング学会 不妊カウンセラー。
ドナー登録をご検討の方へ
身元を開示してくださるドナーを募集します
私たちは、精子提供で生まれたお子さまが将来希望された場合に、ご自身の身元情報(氏名・居住都道府県・生年月日・連絡先)を開示してくださるドナーを募ります。
精子提供を希望するご夫婦へ
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日本の精子提供の厳しい仕組みの中で、皆さまは大変お辛い日々をお過ごしのことと思います。皆さまの苦しみが一日も早く緩和されることを願い、私たちはやさしい精子提供の仕組みを広げられるよう邁進いたします。